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分野 | |
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問 | 被ばくした線量の合計が同じ場合、長期被ばくの方が短期被ばくよりも影響が小さいのでしょうか。 |
答え | 一般的に、長期間にわたって少しずつ放射線を被ばくする方が、一度に、あるいは短時間にたくさんの放射線を被ばくするよりも発がんなどへの影響は小さい事が分かっています。 発がんなどの確率的影響については、放射線医学総合研究所からの研究報告があります。被ばくによって発生するがんと自然に発生したがんを区別することができる特殊なマウスを用いることにより、被ばくした線量の合計が同じでも、単位時間当たりの被ばく線量(線量率といいます)が少ないほど、被ばくによって発生するがんのリスクが低くなることが分かりました。また、線量率がある値以下になると、まったく被ばくしていない場合と差が無くなることもわかりました。この理由として体に備わっている修復機能が挙げられますが、低線量率被ばくによる健康影響については、データなどがまだまだ十分ではなく、今後の研究に期待が持たれます。 一方、確定的影響(組織反応)については、実験動物とヒトは、急性の1回照射より慢性的な低線量照射の方が、高い総線量を耐容できることも知られています。その理由には、亜致死損傷修復に加えて、細胞、臓器そして個体レベルの適応反応が挙げられています。 被ばく総線量が一回被ばくによる線量と同じになるように、放射線を2回以上に分割して照射すると、生物学的効果は一般に分割照射した方が減ることが知られています。また低LET(線エネルギー付与)の放射線を2回照射した場合、最初の照射から2回目の照射までの時間を長くすればするほど、生存率は増加します。これは間隔を空けることで、最初の照射で受けたダメージを回復させたこと(この回復を亜致死損傷修復と呼びます)が大きな要因になります。一回の短時間被ばくや連続照射であれば死んだはずの細胞が、死なずに回復できるようになります。 こうした回復には、DNA修復の活性化、G1期とG2期のチェックポイント誘導、たんぱく質合成の誘導、細胞増殖の促進、放射線防護系の活性化など、一連の適応反応の関与が挙げられています。 以上のような一般原則が、低LET放射線の場合には突然変異の発現や発がんでも同様に当てはめられますが、高LET放射線では低線量率照射が発がんや突然変異の誘発を増加させるという報告がありますので注意を必要とします。 また、「線量・線量率効果係数(DDREF)」は、高線量のリスクから低線量のリスクを外挿する際、あるいは、急性被ばくのリスクから慢性被ばくや反復被ばくのリスクを推定する際に用いる補正値です。この補正値をいくつにして放射線防護を考えれば良いのかについては、研究者によって幾つもの意見があります。国際放射線防護委員会(ICRP)ではこの補正値として「2」を採用しています。つまり、放射線を少しずつ被ばくした場合、一度に被ばくした場合に比べて、同じ線量を被ばくした場合でも影響の出方は半分になるとしています。国連科学委員会1993(UNSCEAR 1993)はこの補正値は「3」よりは大きくないであろうと結論づけ、米国科学アカデミーVII(BEIR VII)では「1.5」と推定しています。 |
キーワード | DDREF、長期被ばく、LET(線エネルギー付与)、線量・線量率効果係数(DDREF) |
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参考文献 | ・改訂版(虎の巻)低線量放射線と健康影響(放射線医学総合研究所 編著) ・ICRP, 国際放射線防護委員会の2007年勧告, Publication 103(2009) ・ICRP, 組織反応に関するICRP声明/正常な組織・臓器における放射線の早期影響と晩発影響 -放射線防護の視点から見た組織反応のしきい線量-, Publication 118,[32],[34] (2017) ・図説ハンドブック 放射線の基礎知識と健康影響(環境省、放射線医学総合研究所)(2014) ・清水由紀子、青山喬、放射線による悪性腫瘍の誘発、「放射線基礎医学 第12版」 青山喬、丹羽太貫編、金芳堂、東京、pp.359 - 382ページ(2013) |
関連サイト | ・ICRP, 国際放射線防護委員会の2007年勧告, Publication 103 (2009) https://www.icrp.org/docs/P103_Japanese.pdf ・ICRP, 組織反応に関するICRP声明/正常な組織・臓器における放射線の早期影響と晩発影響 -放射線防護の視点から見た組織反応のしきい線量-, Publication 118 (2017) https://www.icrp.org/docs/P118_Japanese.pdf ・保健福祉職員向け原子力災害後の放射線学習サイト https://ndrecovery.niph.go.jp/?record_id=698&mode=index ・放医研プレスリリース https://www.qst.go.jp/information/itemid034-001353.html |
作成日 | 2018/02/28 |
更新日 |
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