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大分野 | 影響(生体応答・生物影響・健康影響を含む) |
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中分野 | 分子レベルの反応 |
タイトル | DNA修復 |
説明 | DNAは糖、塩基、リン酸を構成要素とするヌクレオチドが多数連結した分子である。そのため、DNA損傷の修復反応はヌクレオチドを単位とした「交換」が基本となり、修復反応にはDNA複製と同様にDNA合成酵素(DNAポリメラーゼ)が深く関わっている。 例外的なDNA損傷修復として、植物などが青色光を利用して、紫外線で生じたピリミジン二量体を可逆的に修復する反応(光回復)があるが、哺乳類においては光回復酵素に似たタンパク質は存在するものの、光回復活性は知られていない。 DNA損傷の修復過程は、(1)損傷の認識、(2)損傷応答シグナルの起動、(3)修復因子の集結と修復反応、(4)損傷応答シグナルの解除、を基本的な流れとしている。放射線で起きるDNA損傷は非常に多岐にわたるため、あらゆる種類のDNA損傷修復機構が関わっているが、細胞の運命決定において特に影響が大きいのはDNA二本鎖切断の修復とされている。 以下に主なDNA損傷修復経路を概説する。 1.塩基除去修復 塩基除去修復は、酸化損傷やアルキル化損傷などの単一塩基の化学修飾に対して働く機構である。まず、化学修飾を受けた塩基とデオキシリポースとの間をN-グリコシラーゼ活性を持つ酵素が切断し、脱塩基部位に変える。次に、脱塩基部位を認識するエンドヌクレアーゼ(APエンドヌクレアーゼ)によって脱塩基がある側のDNA鎖が脱塩基部位のリン酸基側で切断され、脱塩基部位を持つDNA鎖は排除される。排除されたヌクレオチドの代わりに新しいDNA鎖(新生鎖)が合成された後に排除鎖を切り離し、新生鎖と元のDNA鎖が連結される(図1)。この過程では、ごく一部の範囲が新生鎖に置き換えられる場合と、広範囲が置き換えられる場合とがある。 2.ヌクレオチド除去修復 ヌクレオチド除去修復は、紫外線などで生じたピリミジン二量体に対して機能する主要な修復経路である。RNA転写の障害あるいはDNAの構造異常によって損傷が認識されたら、損傷部位に足場となるXPAというタンパク質がDNAヘリカーゼとともに結合し、そこにDNA鎖切断を行う2つのDNAエンドヌクレアーゼ(XPFとXPG)が集結して、ピリミジン二量体を含むDNA鎖を約25ヌクレオチド(塩基)にわたってブロックごと切除する。その後にDNAポリメラーゼが除去された部分を合成し、DNAリガーゼが元の鎖と連結して修復が完了する。なお、この経路に関わる酵素に異常が生じると、色素性乾皮症という遺伝病を発症することが知られている(図2)。 3.損傷乗り越え合成 DNA合成酵素であるDNAポリメラーゼには多くの種類(ヒトでは14種類)があり、一部は化学的に異常な塩基を乗り越えてDNA合成を進める活性を持っている。DNA複製フォークがピリミジン二量体などの損傷塩基にぶつかった際、損傷乗り越え活性を持つDNAポリメラーゼの作用で損傷部分が任意の塩基に置き換えられるタイプのDNA合成反応を「損傷乗り換え合成」と呼ぶ。なお、損傷乗り越え合成では損傷そのものは除去されないので、その後にヌクレオチド除去修復などによって損傷部位が処理される必要がある。 4.DNA鎖切断の修復 1本鎖切断は、DNAヌクレアーゼとDNAポリメラーゼ、DNAリガーゼIIIの反応によって連結されるが、偶発的に生じる1本鎖切断の認識と応答シグナルにはXRCC1およびポリADPポリメラーゼ(PARP)が関わっていることが明らかとなっている。一方で二本鎖切断の修復過程は複雑であり、まだ全容が完全に解明されているわけではないが、主要な経路として非相同末端結合、相同組換え修復、マイクロホモロジー媒介結合が知られている(詳細は「DNA二本鎖切断の修復」を参照)。 5.鎖間架橋・クロスリンク損傷の修復 鎖間架橋およびクロスリンク損傷に対しては、専用の修復機構があるわけでなく、DNA二本鎖切断修復経路の一つである相同組換え修復が主に関わることが報告されている。なお、タンパク質とDNA間のクロスリンクについては、ヌクレオチド除去修復や損傷乗り越え合成、非相同末端結合の関与も示唆されている。 6.ミスマッチ修復 DNA複製時のエラーなどによって生じる塩基対合のミスマッチでは、新生鎖と鋳型鎖の区別が重要となる。鋳型鎖には主にシトシンのメチル化が起きているので、これを目印に鋳型鎖を区別して新生鎖のミスマッチ部分を切除する機構がある。大腸菌ではMutS、MutL、MutHと呼ばれる3種類のタンパク質が関わっている。MutSはMutLとともにミスマッチ部位に結合し、MutHはメチル化DNA鎖を認識して結合する。MutLがDNA鎖をたぐり寄せ、MutS/MutL複合体がMutHと結合したときにMutHが活性化され、結合していない側の鎖(新生鎖)を切断し、同時にエクソヌクレアーゼ活性でミスマッチ塩基を除く。その後にミスマッチのないDNA鎖が合成され、DNAリガーゼが連結して修復が完了する(図3)。なお、ヒトではMSH2、MSH3、MSH6、 MLH1、MSH3、PMS1、PMS2の7種類のタンパク質が関与しており、なかでもMSH2/MSH6複合体とMLH/PMS2複合体が中心的とされている。なお、これら中心的な4種類のタンパク質は、ヒトの遺伝性大腸がん高発がん症候群であるリンチ症候群の原因遺伝子である。 |
キーワード | 修復経路 DNAポリメラーゼ |
図表 | 図1 塩基除去修復の概要 図2 ヌクレオチド除去修復の概要 図3 ミスマッチ修復の概要 |
参考文献 | 大西武雄 監修、「放射線医科学の事典:放射線および紫外線・電磁波・超音波」、朝倉書店、東京、294p(2019) 小松賢志、「現代人のための放射線生物学」京都大学学術出版会、京都、342p(2017) |
参照サイト | |
作成日 | 2022年12月 |
更新日 |
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