提供: SIRABE
大分野 | 放射線防護 |
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中分野 | |
タイトル | 低線量 |
説明 | ICRP1990年勧告、UNSCEAR2000年報告では、広島・長崎の原爆被爆者の健康調査結果から、200mGy以下と定義しているが、BEIRVII報告、UNSCEAR2007年報告、ICRP2007年勧告など、最近の刊行物では100mGy以下としているものが多い。 1 マイクロドジメトリ(微視的線量評価)における「低線量」の定義 微視的な線量の吸収は、マイクロドジメトリと呼ばれ、生物物理学の一分野である。線量を下げていった時の素線量は、標的の大きさおよび放射線の線質ごとの飛跡への線エネルギー付与(Linear Energy Transfer:以下LET)で表される。60Coγ線を直径8μmの細胞核に照射する場合、細胞核に平均1個のヒットを与える条件では、細胞が受ける線量はおよそ1mGyであり、5MeVのα線によって同様の条件で細胞が受ける線量は、およそ150mGyである[Booz and Feinendegen 1988]。微視的には、細胞核が平均1個のヒットを受ける線量は、2次項(2ヒットを受ける細胞)がほとんど存在しない(全体の10%程度)状態であり、それ以下の線量を「低線量」と定義するという考え方も併せて提案されている[Booz and Feinendegen 1988]。この提案に沿えば、60Coγ線では1mGy以下が、α線被ばくでは150mGy以下が「低線量」ということになる。 一方で、平均的には1細胞当たり1ヒットとなる線量では、2ヒット以上となる細胞の割合は約10%あることを重視して、複数ヒット間の相互作用が無視できるレベルまで、2個以上のヒットを受けた細胞の割合を下げる必要があるという考え方も示されている[ICRU 1983, UNSCEAR 1993]。この場合には、「低線量」の定義はさらに小さい値となり、2個以上のヒットを受けた細胞の割合を全体の約2%以下に抑えるためには、γ線の場合は0.2mGy以下に抑えなければならない。 実際には、DNA切断は修復されるので、修復に要する時間を3時間程度とすると、この条件下において、未修復のDNA切断が2つ共存するために必要な線量率を計算で求めることができ、UNSCEARでは、おおよそ1mGy/minの放射線被ばくが必要と推定している[UNSCEAR 1993,UNSCEAR 2000]。 地球上で生存・進化してきた生物は、放射線や呼吸による活性酸素によって生じた細胞レベルでのDNA損傷を修復する能力を獲得し、エラーの発生率を下げるように応答する。その結果、実際に効果(影響)を生じるDNA切断数(有効ヒット数)を生じるには、より多くの放射線が必要となる。DNA修復や適応応答を考慮すると、「低線量」の基準となる生物学的な線量は、上述の0.2mGyよりも大きな値となる。 2 疫学データおよび動物実験データによる「低線量」の定義 UNSCEAR2006年報告では、広島・長崎の原爆被爆者の健康調査結果から、がん死亡率(I)と線量(D)の関係(I=αD+βD^2)において、線量の2次項(βD^2)が1次項(αD)に比べて小さくなる線量(α/β)を根拠として、「低線量」を100mGy以下(線量率にかかわらず)としている。 「低線量率」については、ICRP1990年勧告では100mGy/hr(1.7mGy/min)以下(線量にかかわらず)としているのに対し、UNSCEAR2000年報告では、0.06mGy/min(数日または数週間の平均)以下としており、これは、腫瘍誘発に関する動物実験データに基づいている。 |
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参考文献 | 低線量放射線と健康影響(放射線医学総合研究所 編著) Booz J and Feinendegen LE. A microdosimetric understanding of low dose radiation effects. Int. J. Radiat. Biol., 53, 13-21, 1988. ICRU. Microdosimetry, International Commission on Radiation Units and Measurements, ICRU Report 36, 1983. UNSCEAR, UNSCEAR 1993 Report: Sources and Effects of Ionizing Radiation. UNSCEAR, UNSCEAR 2000 Report: Sources and Effects of Ionizing Radiation. |
参照サイト | 国際放射線防護委員会の1990年勧告(日本語版)https://www.icrp.org/docs/P60_Japanese.pdf 国際放射線防護委員会の2007年勧告(日本語版)https://www.icrp.org/docs/P103_Japanese.pdf |
作成日 | 2019/03/01 |
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