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タイトル トリチウムのRBEに関する国際的な見解(UNSCEAR2016年報告書を中心に)
説明 UNSCEAR2016年報告書の科学的付属書Cではトリチウムの内部被ばくについてとりまとめている。このきっかけとなったのはイギリスのHPAのAGIR(電離放射線諮問グループ)というグループによるreview of riskという2007年の報告書であるといえる。AGIRが報告書の作成を始めた当時、特に大きな社会問題の対応としてトリチウム研究が求められたわけではないが、労働者および公衆へのトリチウムによる線量が関心事項であり、トリチウムの生物学的効果比(RBE)はその値によっては線量や線量率を大幅に変えてしまう要因となるため、値が決まることを期待されていた。その報告書ではいくつかの問題提起を行っている。そのうちの一つがRBEはいくらであるべきかという点である。
ここではUNSCEAR 2016年報告書の科学的付属書CのうちRBEについてまとめていく。

AGIRの報告書では、さまざまな細胞および遺伝学的研究で、トリチウム水のRBE値は、通常、正中電圧X線と比較して1-2の範囲で、ガンマ線と比較して2-3の範囲で観察されているとしRBE値を報告する際には、比較に高エネルギーガンマ線を選択することを推奨し、疫学研究と個々の遡及的リスク評価にはRBE値として2を使用することを勧告している。
さらに、イギリスの報告に触発されて、フランスの原子力安全局(ASN)によって作成された報告書では、IRSNは、(放射線)加重係数wRの基礎となる確率的影響に対するトリチウムのRBEは1よりも2に近いと考えていること、NGOのACROおよび全国的な協会のANCLIでは支持されず、協会は予防のために5の加重係数を主張していることが述べられ、国内でも同意がえられていないことを報告している。ASNは実効線量の計算に使用されるトリチウムの加重係数の値をICRPに確認するように要求し、ICRPの対応が確定する前に加重係数として2を使う調査を進めている。
一方、カナダの報告書では、トリチウムRBEの50以上の異なる推定値が再検討され、X線と比較した場合、トリチウムのRBEは約1.4、ガンマ線と比較した時は、RBEは約2.2であった。
UNSCEARは2016年報告書において特定の内部放出体としてトリチウムおよびウランの生物動態,線量評価,効果について広範なレビューを実施することにした。UNSCEARがトリチウムを選んだ理由として、前述したAGIR、ASNなどによる報告書を含め、カナダ、フランス、イギリスなど多くの国で大規模なレビューおよびデータ解析が実施されたことを挙げている。
RBEに関する詳細はUNSCEARの報告書の第7章で検討されているが、第10章「一般的結論」では、トリチウムのβ線のRBE研究については、再調査をしたところ、ガンマ線及び常用電圧X線と比較して約1から数倍高い値までの範囲を示し、生物学的エンドポイント,試験システム,線量および線量率,ならびに基準放射線の選択などの多くの要因に依存することが示されている、とまとめている。(UNSCEARの報告書では4つの表に、トリチウムから放出されるベータ線についての哺乳動物のRBEに関する研究がまとめられており、生体内研究及び生体外研究について、それぞれ二つの表(基準がX線、またはγ線、γ線の場合は慢性照射)に分かれている。エンドポイントとしては、生体内研究の場合、エンドポイントはマウスの個体死やがん染色体異常、精巣の重量低下、優性致死突然変異アポトーシスなどがあり、生体外研究の場合はヒトの細胞の染色体異常やマウス細胞内の細胞生存などがある。)
「哺乳動物の様々なエンドポイントによる約50の生体内および生体外実験から得られたRBE値は、ガンマ線に関して1.0-5.0(2-2.5が中心)および常用電圧X線に関して、0.4-8.0(1.5-2が中心)の範囲であった。」と具体的な数値を述べ、「研究はまた、RBE値が低線量で増加する一般的な傾向を示した」と傾向も述べている。これらの数値は、それまで報告されていたイギリスや、カナダの報告書の数値と比較して、大きく違ったものではない。
しかし、UNSCEARは、「当委員会は、関連データが不足しているため、ほ乳類への発がん影響について特定の結論を引き出す能力は限られていると強調する」としているため今後の研究によっては数値が見直されることも考えられる。
第9章の「研究の必要性」では「特にOBTのようなトリチウムから放出されるベータ線のRBEに関する知見をさらに収集するには,最新の手法を用いて,発がん性の側面だけでなく,非がん影響についても重点を置くべきである。特に,胎児期および乳幼児期の被ばくの様々な段階について研究が必要である。」と必要性を述べている。
キーワード
図表
参考文献
参照サイト 英国健康保護庁による2007年のトリチウムのリスクに関する報告書
HPA. Review of risks from tritium. RCE-4. Health Protection Agency, Chilton, 2007.
https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/335151/RCE-4_Advice_on_tritium.pdf
(UNSCEAR 2016年の報告書では文献番号H16として引用されている)

カナダ原子力安全委員会による2006年のトリチウムに関する報告書
CNSC. Tritium releases and dose consequences in Canada in 2006. Part of the tritium studies project. INFO-0793. Canadian Nuclear Safety Commission, Ottawa, Ontario, 2009.
(UNSCEAR 2016年の報告書では文献番号C23として引用されている)

フランス原子力安全局による「トリチウム白書」
ASN. Livre Blanc du Tritium. Groupes de reflexion menes de mai 2008 a avril 2010 sous l'egide de l'ASN et Bilan annuel des rejets de tritium pour les installations nucleaire de base de 2013 a 2017. Autorite de Surete Nucleaire,
https://www.asn.fr/sites/tritium/
作成日
更新日 2020/03/25