提供: SIRABE
分野 | |
---|---|
問 | ICRP勧告では、100mSv以下の放射線影響をどう考えているのでしょうか。 |
答え | 確定的影響については、臨床的に意味のある機能障害は発生しないと判断しています。 胎児に関しても致死的影響、IQの低下についてほとんど発生しないと判断していますが、奇形の誘発は100mGy付近にしきい値があり、ICRPはその付近の線量の安全性については言及していません。注1 確率的影響については、リスクは否定していません(妊娠中の被ばくによる胎児の発がんリスクも含む)。臓器及び組織の等価線量の増加に正比例して増加するであろうと仮定することを、科学的にもっともらしい、と考えています。ただし、低線量における健康影響に不確実性があることから、集団線量から発生数を試算することは適切ではないとしています。 確定的影響についてICRPは、2007年勧告[2009]において、「約100mGy(低LET放射線又は高LET放射線)までの吸収線量域では、どの組織も臨床的に意味のある機能障害を示すと判断されない。この判断は、1回の急性線量と、これらの低線量を反復した年間被ばくにおける遷延被ばくのかたちで受ける状況の両方に当てはまる」と記載しています。 なお、ICRP Publication 118[2017]の表4.4「急性、分割または遷延、そして慢性照射を受けた成人の組織と臓器での1%の罹患率を指標にした、しきい線量の推定値」では、精巣の一時的不妊の影響が発生する急性被ばくの線量を約0.1Gy、18か月未満の認知障害が発生する急性被ばくの線量を0.1 - 0.2Gyとしており、表の中ではこれらの値が最低値となっています。 胎児については「100mGyを下回る線量では、この種(胚発生の着床前期における照射)の致死的影響は非常にまれであろう。」、「動物データに基づいて、奇形の誘発に関しては100mGy前後に真のしきい値が存在すると判断され」、「真の線量しきい値が存在しないとしても、100mGyを下回る子宮内線量後のIQへのいかなる影響も実際的な意義はないであろう」と記載されています。 一方、確率的影響については2007年勧告において、放射線防護の観点(予測的状況における低線量被ばくによるリスクの管理のための基盤を提供するといった観点)から、「がんの場合、約100mSv以下の線量において不確実性が存在するにしても、疫学研究及び実験的研究が放射線リスクの証拠を提供している。遺伝性疾患の場合には、人に関する放射線リスクの直接的証拠は存在しないが、実験的観察からは、将来世代への放射線リスクを防護体系に含めるべきである、と説得力のある議論がなされている」と記載しており、このような低線量域では、ある一定の線量の増加はそれに正比例して放射線起因の発がん、遺伝性影響の確率の増加を生じるだろうといった仮定を採用しています。また胎児の被ばくについても特に線量については言及せずに「子宮内被ばく後の生涯がんリスクは、小児期早期の被ばく後のリスクと同様で、最大でも集団全体のリスクのおよそ3倍と仮定することが慎重であると考える」と記載しています。 注1:ICRP2007年勧告には(95)に「実際的な目的には、委員会は『100mGyを十分下回る』線量に対する子宮内被ばく後の奇形発生リスクは期待されないと判断する。」と記載されています。 ICRP Pub.84の表4には放射線量の関数として示した健康な子供が生まれる確率の欄があり、子供が奇形を持たない確率は0mSv(環境からの被ばく以外被ばくなし)で97%、50mSvで97%、100mSvで「97に近い(%)」と記載されています。 |
キーワード | 100mSv |
図表 | |
参考文献 | ・ICRP, 国際放射線防護委員会の2007年勧告, Publication 103, [60], [62], [64], [66], [94], [95], [96](2009) ・ICRP, 組織反応に関するICRP声明/正常な組織・臓器における放射線の早期影響と晩発影響 -放射線防護の視点から見た組織反応のしきい線量-, Publication 118(2017) |
関連サイト | 国際放射線防護委員会の2007年勧告(日本語版)https://www.icrp.org/docs/P103_Japanese.pdf |
作成日 | 2018/02/28 |
更新日 |
カテゴリ: