提供: SIRABE
大分野 | 影響(生体応答・生物影響・健康影響を含む) |
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中分野 | 細胞・組織・個体レベルの影響 |
タイトル | 体幹部不均等被ばく |
説明 | 個人モニタリングにおいて,全身のうち手足などを除く体幹部が不均等に放射線被ばくを受ける状況を指す。また,転じて,そのような被ばく状況における個人モニタリングの手法を意味する場合もある。体幹部は,頭部及び頚部,胸部及び上腕部,腹部及び大腿部の三区分からなり,それぞれの区分の受ける線量に差異があると特定できる場合,胸部(又は腹部)に着用する個人線量計とは別に,必要な区分にも個人線量計を着用するなどの対応が必要になる。なお,体幹部以外の部分(手,前腕,下腿,足首,及び足からなり,末端部と総称される)の被ばくは末端部被ばくと呼ばれ,体幹部が受ける線量との差異によっては,末端部にも個人線量計を着ける必要がある。 外部被ばくによる線量の測定では,個人線量計を,線量限度を超えて被ばくしていないことを確認するのに適切な部位に装着することが重要である。この適切な部位の選択にあたって,体幹部の被ばく状況を,便宜的に「均等被ばく」と「不均等被ばく」に分けて考えることが一般的である。 前者の「体幹部均等被ばく」の場合は,胴体(胸部又は腹部)の代表的な位置に一個の個人線量計を装着することで,線量の適切な測定・管理が可能である。このとき想定される線源は,たとえば,大きな広く分布した線源や離れた位置にある線源などであり,これらは作業者の体表面の線量分布に大きな差異を形成しないため,胴体のどの位置に個人線量計を装着してもほぼ同じ測定結果が得られる。 一方,後者の「体幹部不均等被ばく」の場合,胴体に着けるただ一個の個人線量計では線量分布の差異に適切に対応した測定にならない。たとえば,小さな線源に近接して作業する場合に,その線源に最も近い部位に個人線量計を装着すると全身にわたる平均的な線量と比べて過大な測定結果となりがちである。また,鉛エプロンなどの防護具を使用する場合,個人線量計を防護具の外側に着けると防護具の遮へい効果を無視した過大な測定結果,反対に防護具の内側に着けると防護具に覆われていない部分への線量寄与を無視した過小な測定結果が得られる。こうした問題に対処するため考え出されたのが,体幹部に複数の個人線量計を装着するというアイディアであり,とりわけICRP 1977年勧告の中で実効線量当量(代表的な臓器の線量にそれぞれの臓器の放射線感受性に基づいた加重係数を乗じて総和したもの)によって個人の被ばく線量を制限するという概念が導入された以降,幾つかの国々で具体的な個人モニタリング手法の開発が進められた。わが国では,ICRP 1977年勧告の放射線防護関連法令への取り入れの検討の結果,(1)体幹部のうち頭部及び頚部,胸部及び上腕部,腹部及び大腿部のそれぞれの区分の受ける線量に差異があると特定できる場合を体幹部不均等被ばくとすること,(2)それに該当する場合,胸部(又は腹部)に着用する個人線量計に追加して必要な区分にも個人線量計を着用すること,(3)それぞれの区分に着けた個人線量計から求めた1cm線量当量と対応する区分に割り当てられた係数(その区分に含まれる臓器の組織加重係数に基づく)との加重平均によって実効線量当量を算定すること,が定められた。これは,実効線量当量の定義を個人線量計による線量測定にそのまま応用したものと考えてもよい。必要になる個人線量計の個数とそれらの装着部位は,不均等被ばくの状況に依存して変わるが,少なくとも二個であり,たとえば鉛エプロン着用のケースでは,エプロンの内側の胸部(又は腹部)に一個,エプロンの外側の首付近にもう一個の個人線量計が装着されることが多い。このとき,それぞれの1cm線量当量に乗じられる係数は,1989 - 2000年度まではエプロン内で0.65,エプロン外で0.35であったが,ICRP 1990年勧告がわが国の関連法令に反映され,実効線量当量が実効線量に変更された2001年度以降,最新の組織加重係数に基づきそれぞれ0.89と0.11に改訂された。体幹部不均等被ばくに該当すると判断する際の体表面の線量分布の差異,すなわち不均等の程度については,法令等では具体的に明示されていないが,日本保健物理学会「眼の水晶体の線量モニタリングのガイドライン」では,ファクター1.5 - 2をその目安とすることを提案している。 |
キーワード | 個人モニタリング 個人線量計 |
図表 | |
参考文献 | 日本保健物理学会, 眼の水晶体の線量モニタリングのガイドライン(2020) http://www.jhps.or.jp/upimg/files/suishotai-guideline.pdf |
参照サイト | ICRP, 国際放射線防護委員会勧告(1977年1月17日採択), Publication 26, (1977) https://www.icrp.org/docs/P26_Japanese.pdf ICRP, 国際放射線防護委員会の1990年勧告, Publication 60, (1991) https://www.icrp.org/docs/P60_Japanese.pdf |
作成日 | 2020年12月 |
更新日 |
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