提供: SIRABE
大分野 | 影響(生体応答・生物影響・健康影響を含む) |
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中分野 | 分子レベルの反応 |
タイトル | 放射線感受性 |
説明 | 放射線に被ばくしたときの相対的な「効果の現れやすさ」を指す。例えば、「突然変異誘発に関して感受性が高い」などの使われ方をする。特に「死にやすさ」を指す場合も多く、個体に関しても、組織や細胞に関しても用いる。 組織、臓器ごとに放射線感受性に差がある。この差は放射線生物学の原点であり、放射線治療や放射線の人体に対する影響の評価を行う上で非常に重要であり、がんの放射線治療時の線量決定や放射線防護の領域の基礎となっている。正常組織のみならず、がん細胞であっても治療方法や放射線の線量決定に感受性は重要である。 放射線生物学の基礎概念は1906年にBergonieとTribondeauが提唱した「未分化(未熟)で分裂能が高い細胞、例えば、消化管上皮細胞、生殖細胞、造血細胞などは放射線に対する感受性が高い、つまり、放射線に弱い」いう説に始まる。これをベルゴニエ・トリボンドウの法則といい、(1)細胞分裂頻度の高いものほど、(2)将来、分裂回数の大きいものほど、(3)形態および機能において未分化なものほど、組織の放射線感受性は高いと考えられた。分かりやすく言えば、分化した細胞(成熟した細胞)は、分裂が起こらないため「放射線に強く」、これを「感受性が低い、あるいは、抵抗性である」という。また、分裂がゆっくり起こる細胞ほど、放射線に抵抗性が強い。神経細胞や心臓の筋肉(心筋)がこれに該当する。加えて、遺伝的背景(種の違いや細胞の種類)、照射時の環境(温度、酸素濃度、増感剤・防護剤の有無など)、放射線の線質、線量率、細胞周期(DNA合成が盛んな時期、増殖期が盛んな細胞では、感受性が高い)等によっても放射線感受性は左右される。また、がん細胞(分裂能高く、染色体数が増加している)は感受性が高い。 急性放射線症(ARS)では、被ばく線量に応じて骨髄障害、消化管障害、神経・循環障害が現れるが、これは組織の放射線感受性の相違によるものである。高線量の場合、同じ被ばく線量でも、これら組織や臓器によって障害が現れる時期が異なるのも感受性の相違によるものである。 組織の放射線感受性は、基本的には分裂細胞と分化成熟した機能細胞の割合で決まると考えてよい。組織中の細胞分裂頻度が組織の放射線感受性を決める要因として最も重要である。 もう一つ、放射線に対する感受性を決める重要な要因に、線量がある。階層性モデルを示す組織の場合、細胞の"成熟に要する時間"と"分化成熟した細胞の寿命"の合計された期間が組織障害発症までの期間になる。この期間を「潜伏期」と言うことができる。組織の放射線感受性と組織の細胞分裂の頻度により、それぞれの組織の分類したものが図1である。細胞の成熟期間と機能細胞としての寿命の短い組織は感受性が非常に高く、一方、寿命の短い組織(神経組織など)は機能細胞が潜在的に分裂能を持っているが、細胞分裂の頻度は低いので感受性は低い。 放射線に対する感受性について、生物種族別の放射線感受性を、被ばく後に50%の個体が生存している線量で比較したものが表1及び表2である。例外はあるが、一般に下等動物ほど放射線感受性が低く、抵抗性といえる。おそらく、高等動物は様々な感受性を持つ臓器・組織の集合体で、最も感受性の高い臓器・組織が個体の生存を決める要因となっているのに対して、単純な生物体では、臓器・組織も少なく、感受性に差が少ないことなどが抵抗性の要因の一つと考えられる。 |
キーワード | ベルゴニエ・トリボンドウの法則 |
図表 | 図1 臓器・組織の放射線感受性(人体影響の発生機構) 表1 生物種間の放射線感受性の差 表2 生物種間の放射線感受性の差 |
参考文献 | ・ICRP, 組織反応に関するICRP声明/正常な組織・臓器における放射線の早期影響と晩発影響 -放射線防護の視点から見た組織反応のしきい線量-, Publication 118 (2017) https://www.icrp.org/docs/P118_Japanese.pdf ・「放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料 平成28年度版 ver.2017001」 第3章 放射線による健康影響 3.2 人体影響の発生機構 臓器・組織の放射線感受性https://www.env.go.jp/chemi/rhm/kisoshiryo/attach/201510mat1-01-81.pdf |
参照サイト | |
作成日 | 2018/02/28 |
更新日 |
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