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分野
しきい値については、どのように考えるべきでしょうか。
答え しきい線量しきい値)は、確定的影響(やけどのような症状や不妊など)について、その線量以下ではほとんど発生しない(発生するとしても1 - 5%)とされる線量です。この線量は確定的影響にのみ存在し、がん突然変異遺伝性影響などのような確率的影響には存在しないとされています。それはICRPが、放射線防護の観点から、約100mSvよりも低い低線量域では、がん又は遺伝性影響の発生率は、関係する臓器及び組織の等価線量の増加に直線的に正比例し、しきい値は無いと仮定したLNTモデルを採用していることによります。
大抵の細胞には寿命があり、寿命がきた細胞の不足分を補うように細胞が増殖します。しかし、やけどや病気などで寿命前の細胞が大量に死ぬと、増殖が追いつかなくなり、生き残った細胞が能力を補うこともできず、組織として機能を維持できなくなります。細胞が放射線を浴びたときも、傷ついた遺伝子を修復できず死ぬことがあります。線量が増えると死ぬ細胞が増えるため、障害の程度も重くなり、治りにくくなります。障害が確認できるほど細胞が死ぬ線量がしきい値ともいえます。
既に分化し、分裂が終わった細胞(組織で機能を維持している細胞)よりも、分裂中及び未分化の細胞(機能を維持している細胞の下で待機している細胞)は放射線に弱いため、機能を維持している細胞が傷つかなくても、待機している細胞だけが傷つくことがあります。そのような場合、照射直後は機能に影響がなくても、時間が経ち、照射した時に機能を維持していた細胞が死ぬことで、次に機能を担う細胞が十分に補充されずに、影響が出てくることになります。この影響は組織の細胞の交代のサイクルにより起こるので、影響が出る時期は被ばくした臓器・組織によって異なります。
既に影響が出る前に、特定の組織内の多数の細胞が傷ついた状態になっていることから、確定的影響が発生するまでの間に、薬の投与などの措置をすることで、確定的影響を抑えたり、その程度を軽くしたりすることも可能です。
ICRP 2007年勧告以降は、確定的影響は、放射線を照射された時の線量だけで決まるのではなく、その後の治療で発症が抑えられることが明らかになった(組織反応に関するICRP声明)ことを受けて、組織反応(tissue reactions)と呼ばれるようになっています。
キーワード
図表 図 確率的影響と確定的影響(組織反応)の比較
参考文献 ICRP, 国際放射線防護委員会の2007年勧告, Publication 103[64]、[65]、[66]、[A178](2009)
ICRP, 組織反応に関するICRP声明/正常な組織・臓器における放射線の早期影響と晩発影響 -放射線防護の視点から見た組織反応のしきい線量-, Publication 118(2017)
関連サイト ・ICRP, 国際放射線防護委員会の2007年勧告, Publication 103 (2009)
https://www.icrp.org/docs/P103_Japanese.pdf
・ICRP, 組織反応に関するICRP声明/正常な組織・臓器における放射線の早期影響と晩発影響 -放射線防護の視点から見た組織反応のしきい線量-, Publication 118 (2017)
https://www.icrp.org/docs/P118_Japanese.pdf
・保健福祉職員向け原子力災害後の放射線学習サイト
https://ndrecovery.niph.go.jp/?record_id=676&mode=index
作成日 2018/02/28
更新日