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タイトル 非相同末端結合
説明 非相同末端結合は、相同組換え修復とともに、DNA二本鎖切断(DSB)修復の主要な機構の一つである。非相同末端結合は空間的に最も近接するDNA末端同士を連結する反応で、少なくとも典型的なC-NHEJ(classicalまたはcanonical NHEJ)と代替的なA-NHEJ(alternativeまたはatypical NHEJ)の2つがある。

1.非相同末端結合(NHEJ)の特徴
 非相同末端結合では、結合部位における塩基の欠失や挿入、さらには偶然に空間的に近接する他の配列との結合などの誤りが起こる可能性がある。また、C-NHEJよりもA-NHEJの方が誤りを起こしやすいと考えられている。ただし、ヒトのゲノムDNAの中でタンパク質をコードする領域はごく一部であるので、それ以外の領域においては少数の塩基の欠失や挿入は許容されることが考えられる。また、ヒトを含む高等動物細胞において、相同組換え修復が細胞周期のS期後半からG2期に限定されるのに対し、NHEJは細胞周期全体を通じて可能という特徴を持つ。C-NHEJは免疫系組織において抗体やT細胞受容体の多様性を生み出す「V(D)J組換え」の中心機構であるので、C-NHEJ機構を欠損するヒトの遺伝病患者や遺伝子改変マウスなどでは、放射線高感受性に加え、免疫不全が見られることが多い。

2.(典型的な)非相同末端結合(C-NHEJ)の分子機構
 C-NHEJでは、Kuタンパク質(Ku70とKu80)ヘテロ二量体が最初にDSB末端付近に結合する[ (1)]。Ku二量体はドーナツ状の構造を有しており、その穴の部分でDNA鎖に結合し、PAXX(別名XLS)はKuのDSBへの結合を安定化する。次に、Ku二量体を介してDNA依存性プロテインキナーゼ触媒サブユニット(DNA-PKcs、なお、KuとDNA-PKcsの複合体をDNA-PKと呼ぶ)がDSBに結合して活性化し、自身および他の修復酵素群をリン酸化する[ (2)]。DNA末端の形状により直ちに結合できない場合には、DNA分解酵素であるArtemisヌクレアーゼなどによる末端の整形(プロセシング)が行われる[ (3)]。DNAリガーゼIVが最終的にDSB同士を結合して反応が完結する。この際に、XRCC4およびXLF(別名Cernunnos)がDNAリガーゼIVの機能を調節する。

3.(代替的な)非相同末端結合(A-NHEJ)の分子機構
 A-NHEJの分子機構はC-NHEJに比べて不明な部分が多いが、反応機構の一つとして、まず、相同組換え修復に関わるDNA分解酵素によるDNA鎖の分解やDNAポリメラーゼ・(シータ)による鋳型鎖に依存しないDNA合成によって一本鎖DNA部分が形成され、次に、この一本鎖DNAに存在する短い相同性を持つ配列同士が対合し、DNAポリメラーゼによるDNA鎖の伸長が行われ、最終的にXRCC1/DNAリガーゼIII複合体による鎖結合が行われる経路が考えられている。
キーワード C-NHEJ、A-NHEJ、V(D)J組換え、Ku、DNAリガーゼ
図表
参考文献 「放射線医科学」、大西武雄監修、医療科学社、東京 (2016)
参照サイト
作成日
更新日 2020/03/25