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大分野 重要論文の解説
中分野 低線量率被ばく
タイトル Solid cancer incidence in atomic bomb survivors: 1958-1998.
日本語タイトル 原爆被爆者の固形がん罹患:1958-1998年
著者 Preston DL et al
文献情報 Radiat Res. 168(1):1-64 (2007)
説明  本論文は、寿命調査(LSS;Life Span Study)による原爆被爆者の固形がん罹患率を解析した研究として1994年の論文(追跡期間 1958 - 1987)に続く2つ目の総括報告である。
 広島、長崎の原爆被爆者を対象としたLSSは放射線の健康影響についての最も有用な情報源として役立ってきた。本研究はLSSの一環として実施されたもので、対象は広島、長崎の原爆被爆者のうち、1958年時点で生存しており、それ以前にがん罹患がなく、新しい線量推定方式DS02に基づいて個人線量が推定された105,427人である。広島と長崎のがん登録に基づき、1958年から1998年までのがん罹患が追跡調査され、全固形がん及び部位別のがんについて、過剰相対リスクモデルおよび過剰絶対リスクモデルによる解析が実施され、各モデルに基づくリスクの変動、線量-反応関係、性及び被ばく時年齢および到達年齢によるリスクの変化等について検討がなされた。
追跡期間における観察人年は男性1,040,278人・年、女性1,724,452人・年の計2,764,730人・年で、追跡率は99%であった。初めて原発性がんと診断された症例が17,448人確認された線量とがん罹患率の関連の解析により得られた結果として、(1) 寿命調査集団では、全固形がんについて0.005 Gy以上の調査対象者から発生したがん症例のうち、約850例(約11%)が原爆による放射線被ばくと関連している推定された。(2) 線量-反応曲線は0 - 2Gyの範囲では線形であった。さらにそれより低線量域では、解析対象とする被ばく線量の範囲を0から少しずつ上げたところ、0.15 Gyで線量反応が統計的に有意となった。(3) 全固形がんの罹患率については、被ばく時年齢が30歳の場合、到達年齢70歳の男性で1 Gy当たり約35%、女性で約58%、固形がん罹患率が増加すると推定された。(4) 検討されたすべての組織型群について、がんリスクの増加が示唆された。(5) 全固形がんの過剰相対リスクは被ばく時年齢が10歳増加するごとに約17%減少し、到達年齢の1.65乗に比例して減少した。
一方、がん罹患の過剰絶対リスクについては調査期間を通じて増加していることから、放射線に起因するがん罹患率の増加は、被ばく時年齢に関わらずに生涯を通じて続くとするこれまでの報告を裏付けている。
本論文で報告された罹患率データは、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)2006年報告書附属書A「放射線とがんの疫学研究」におけるがんリスク推定や、国際放射線防護委員会(ICRP)の2007年勧告におけるがんリスク推定に用いられるなど、放射線の健康影響評価において重要な役割を果たしている。
キーワード 原爆被爆者 追跡調査 固形腫瘍
図表
参考文献 Thompson DE, et al., Cancer incidence in atomic bomb survivors. Part II: Solid tumors, 1958-1987., Radiat Res. 137(2 Suppl), S17-67 (1994).
参照サイト https://www.icrp.org/docs/P103_Japanese.pdf
ICRP, 国際放射線防護委員会の2007年勧告, Publication 103 (2009)
更新日