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大分野 放射線防護
中分野
タイトル 日本の原子力規制におけるリスク拘束値の検討
説明 日本の原子力規制に関する指針類や放射線安全基準において、潜在被ばくについて明確にリスク拘束値を設定された例はない。ただし、原子力安全委員会廃棄物処分の基準や安全審査指針類における放射線防護にかかる記載の考え方を検討する中で、リスク拘束値に関する検討が行われてきた。
原子力施設における重大事故、仮想事故にかかわるリスク拘束値については、放射線防護専門部会の中に設置された「原子力安全委員会の安全審査指針類における放射線防護にかかる記載の考え方検討ワーキンググループ(WG)」において検討され、「原子炉立地指針を適用する際に必要な暫定的な判断のめやすにかかる考え方の中間整理」[2009]において、「重大事故、仮想事故による被ばくを潜在被ばくに分類し、リスク拘束値の考え方を用いてめやす線量を設定することについては、立地指針等検討小委員会における検討結果を踏まえ、今後当WGにおいて行う潜在被ばくに係る検討の一環として検討すること」になった。その報告のあとに開催された立地指針等検討小委員会では「想定事故での公衆の被ばくは、ICRP が定義する潜在被ばくに相当することが明確になるよう改定する方向で検討している」ことから、ワーキンググループに対し「リスク拘束等、潜在被ばくに対する被ばく制限の考え方についての検討を要請」している。最終的な報告書「原子力安全委員会の安全審査指針類における放射線防護にかかる記載の考え方」[2010]では、「今後の課題」のところで、リスク拘束値の取り入れに関し、リスク拘束値が確率論的な考え方を必要としていることから、「現行の原子力安全委員会の安全審査指針類については、確率論的な考え方が一部取り入れられつつあるものの、その基本は決定論的な考え方によっている。したがって、放射線防護に関する判断基準への確率論的な考え方の導入については、安全審査指針類が確率論的な考え方にも整合する体系となるよう考慮しつつ進めることが必要である。」とまとめている。立地指針等検討小委員会では、原子力安全基準・指針専門部会でその点を報告しているが、当面の改定案として「非居住区域の範囲の妥当性を立地評価事故の評価から判断するためのめやすを実効線量で 100mSv(または250mSv)とする。」としている。
一方、廃棄物施設における潜在被ばくについては、原子力安全委員会において2007年に「低レベル放射性廃棄物埋設に関する安全規制の基本的考え方」(中間報告)において初めて検討している。この検討では、極めて長期にわたる期間の安全評価において、「リスク論的考え方」を取り入れることにして、稀頻度シナリオの発生可能性を勘案しつつ、潜在的な危険性、すなわちリスクを許容できる範囲に実体的に抑制されているか否かを判断することで、潜在被ばくの概念を導入することとした。ただし、放射性廃棄物の埋設による処分の長期安全性の評価においては、評価シナリオの発生可能性の評価に係る不確実性が特に大きく、その点に関する特別の考察が重要であるとしている。長期の安全評価シナリオに関してはICRP Publication 81が推奨する線量/確率分解アプローチを参考として、発生確率に応じて以下の3区分のシナリオに分類した。
(1)「基本シナリオ」
発生の可能性が高く、通常考えられるシナリオで過去及び現在の状況から、処分システム及び被ばく経路の特性並びにそれらにおいて将来起こることが確からしいと予見される一連の変化を考慮したものである。
(2)「変動シナリオ」
発生の可能性は低いが、安全評価上重要な変動要因を考慮したシナリオで、基本シナリオで選定した以外の様々な変化における変動の範囲を網羅的に考慮するシナリオで、それらの安全評価上の包絡性等を勘案したものである。
(3)「人為・稀頻度事象シナリオ」
発生の可能性が著しく低い自然事象または偶発的な人為事象シナリオで、偶発的な人間活動による処分施設の損傷や、発生の可能性は著しく低いと考えられる自然事象を想定したものである。

それぞれのシナリオでめやすとする線量基準については、基本シナリオにおいては0.01mSv/y、変動シナリオについては、ICRP Publication 81で自然過程のシナリオに適用される0.3mSv/yを参考とし、人為・稀頻度事象シナリオでは、放射線防護上の介入の要否に係る線量レベルとしてICRP Publication 81で勧告している10 - 100mSv/yが適当としている。2010年に原子力安全委員会が発行した「第二種廃棄物埋設の事業に関する安全審査の基本的考え方」においても、これまでの基本的考え方を踏襲している。
2012年に原子力規制委員会が発足した後、廃棄物埋設にかかる防護基準については、2016年に廃棄物埋設の放射線防護基準に関する検討チームにおいて検討され、廃棄物の埋設に係る放射線防護基準についてのこれまでの原子力安全委員会の検討結果について見直しを行った。公開されている検討結果を中間的にまとめた「廃棄物の埋設に係る放射線防護基準及び原子力施設のサイト解放基準について(案)」[2016]によると、廃棄物処分における規制期間終了後に係る最適防護設計の要求と公衆の線量の制限について、施設設計において最適化の要件を新たに追加するとともに、公衆の線量基準は、自然事象に係る線量拘束値を0.3mSv/年とし、人間侵入に係る線量基準としては、潜在被ばくとして考えるが、リスク拘束値は規定しないこととした。線量基準については、現存被ばくにおける参考レベルを参考に、中深度処分については20mSv以下、ピット処分については、1mSv以下、トレンチ処分については0.3mSv以下になるように要求するとしている。このように、様々な事象の発生確率を評価することは難しいので、発生頻度を定性的に判断して、線量拘束値や参考レベルの値を当てはめる方法が、取られているのが現状である。

注 自然過程とは、ICRP Pub.81〔55〕によれば個人の被ばくに至る人間侵入以外の全ての過程を示す。
キーワード
図表
参考文献
参照サイト ・ICRP、長寿命放射性固体廃棄物の処分に適用する放射線防護勧告、Publication 81 [55][56][64] (2000)
https://www.icrp.org/docs/P81_Japanese.pdf
・原子力安全委員会の安全審査指針類における放射線防護にかかる記載の考え方検討WG、立小委第6-3号「原子炉立地指針を適用する際に必要な暫定的な判断のめやすにかかる考え方の中間整理」(平成21年11月17日)(2009)
https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3537352/www.nsr.go.jp/archive/nsc/senmon/shidai/ricchi_shishin/6/siryo3.pdf
・原子力安全委員会放射線防護専門部会、「原子力安全委員会の安全審査指針類における放射線防護にかかる記載の考え方報告書」(平成22年11月)(2010)
https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3537352/www.nsr.go.jp/archive/nsc/shinsashishin/pdf/3/ho1011.pdf
・原子力安全委員会、「放射性廃棄物埋設施設の安全審査の基本的考え方」(1988)
https://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000067457
・放射線審議会基本部会報告「放射性固体廃棄物の浅地中処分における規制除外線量について」(昭和62年12月)(1987)
https://www.rwmc.or.jp/law/d2/no4.html
・原子力安全委員会、「低レベル放射性廃棄物埋設に関する安全規制の基本的考え方(中間報告)」(平成19年7月12日)(2007)
https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3537352/www.nsr.go.jp/archive/nsc/shinsashishin/pdf/3/ho3009-s.pdf
・原子力安全委員会、「第二種廃棄物埋設の事業に関する安全審査の基本的考え方」(平成22年8月9日)(2010)
https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3537352/www.nsr.go.jp/archive/nsc/shinsashishin/pdf/1/si035.pdf
・原子力規制庁、「廃棄物の埋設に係る放射線防護基準及び原子力施設のサイト解放基準について(案)」(平成28年10月14日)(2016)
https://www.nsr.go.jp/data/000166804.pdf
作成日 2019/03/01
更新日