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大分野 放射線防護
中分野
タイトル リスク拘束値
説明 リスク拘束値は、放射線被ばくを伴う施設の設計や使用の段階において、事故や悪意のある事象など通常の利用から逸脱した条件下で生じる可能性のある潜在被ばくについてのリスクの制限値として設定される。リスク拘束値においてのリスクは、被ばくをもたらす事象の発生確率と、その事象によりもたらされる線量に起因する損害の発生確率(リスク係数)との積で表される。
 リスク拘束値の具体的な設定に関して、ICRP Publication 76「潜在被ばくの防護」[1998]において職業被ばくの高いリスク拘束値の例として、2×10^-4を示し、また、原子力施設からの通常放出による公衆被ばくの例について、5×10^-6を示している。
ICRP2007年勧告[2009]において、UNSCEAR2000年報告書[2002]を引用して職業被ばくの年間実効線量の平均レベルが高い場合は5mSv程度になることがあり、その線量に相当する年間リスクが2×10^-4であるとして、このリスク拘束値の根拠を説明している。また公衆の潜在被ばくについては、年間1×10^-5のリスク拘束値を引き続き勧告するとしている。
ICRPは、大規模な原子力施設で,事故の防止と緩和の設計基礎として用いられる線量基準が、それぞれの潜在被ばくのシナリオにその発生確率を考慮することによって,リスク拘束値から導かれるべきであるとしている。しかし、現段階では、発生確率や被ばく線量の評価における不確実性が非常に大きく、評価の手法が、必ずしも確立されているとはいえない状況である。

リスク拘束値の適用の具体的な事例として、事故の防止の観点の他に廃棄物施設の問題が重要である。ICRP Publication 81「長寿命放射性固体廃棄物の処分に適用する放射線防護勧告」[2000]において、管理期間を終了した以降の遠い将来における潜在的な被ばくを考慮した防護措置の基準を示している。
廃棄物処分は、その特有の問題として、廃棄物処分施設で遠い将来に及ぶ完全な永久管理が困難であり、一部の放射性物質は生物圏へ移り、被ばくを引き起こす場合がある。
そのため、廃棄物処分施設の設計や管理のための基準の策定において、潜在被ばくの概念を取り入れている。この潜在被ばくのシナリオには、地震、火山の噴火、地盤隆起、隕石との衝突など自然事象に起因して放射性物質が施設外へ放出して被ばくが生じる自然過程注と、廃棄物処分施設の管理期間が終了した将来において、その場所が廃棄物施設であることが認識されないで、ボーリング作業が行われて、その作業により作業者や周辺住民が被ばくするような「人間侵入」とも呼ばれる人為過程がある。
自然過程シナリオにおける線量基準としては、線量拘束値である1年間0.3 mSvを勧告しており、これは、年当たり10^-5のオーダーのリスク拘束値に相当する。このリスク拘束値が満たされているか否かを判断するための評価方法として、線量と確率を組み合わせることによってリスクを統合する方法(統合アプローチ)と、それぞれの被ばく状況について線量と対応するその被ばくが生じる確率を別個に計算する方法(線量/確率分解アプローチ)の二つが挙げられる。線量/確率分解アプローチとは、起こる可能性のある放出シナリオを決定し、そのシナリオにおいて発生する線量を線量拘束値と比較する方法である。自然事象の発生確率を定量的に推定することは難しいので、発生する確率の定量的な評価が不要であるこの方法がわが国での検討で選択されている。
人間侵入に関連した被ばくの防護については、事象が発生した後の線量低減は難しいので、事象の可能性を減らす対策が最も効果的かつ重要であるとされている。人間侵入は将来の個人に急性又は長期にわたる線量をもたらすことから、場合によってはサイト周辺の住民に対して被ばくを低減する活動(介入)が正当化されるほど高い線量がもたらされる可能性があることから、ICRPはその際に適用される基準として、介入が正当化できそうもない参考レベルとして概ね10mSv/yを、介入がほとんど正当化される線量として100mSv/yを挙げている。
ICRP Publication 122「長寿命固体廃棄物の地層処分における放射線防護」[2017]では、操業終了後において、将来世代に過度の負担をかけることを避けるために、遠い将来の防護措置の変化の影響を緩和するための将来の世代での能動的な防護策の必要性がないように、潜在被ばくに線量拘束値0.3mSv/年または年間リスク拘束値1×10^-5のいずれかを使用すべきとしている。ただし、地殻構造の変動事象や隕石の衝突などを例とした自然の破壊的事象で生じる被ばくや不注意による人間侵入の場合などの特定の状況については、緊急時被ばく状況又は、現存被ばく状況として、参考レベルの選択のバンドの幅内で対応できるように防護システムの頑健性を評価して比較する必要があるとしている。
注 自然過程とは、ICRP Pub.81〔55〕によれば個人の被ばくに至る人間侵入以外の全ての過程を示す。
キーワード
図表
参考文献 ・UNSCEAR、附属書E 職業放射線被ばく「放射線の線源と影響 : 原子放射線の影響に関する国連科学委員会の,総会に対する2000年報告書」原子放射線の影響に関する国連科学委員会編、放射線医学総合研究所 監訳、実業公報社、東京、pp605 - 607(2002)
参照サイト ・ICRP、 潜在被ばくの防護:選ばれた放射線源への適用、Publication 76 [23][80](1998)
https://www.icrp.org/docs/P76_Japanese.pdf
・ICRP、長寿命放射性固体廃棄物の処分に適用する放射線防護勧告、Publication 81 [55][56][64] (2000)
https://www.icrp.org/docs/P81_Japanese.pdf
・ICRP、国際放射線防護委員会の2007年勧告、Publication 103 [268] (2009)
https://www.icrp.org/docs/P103_Japanese.pdf
・ICRP、長寿命放射性個体廃棄物の地層処分における放射線防護、ICRP Publication 122 [54] (2017)
https://www.icrp.org/docs/P122_Japanese.pdf
作成日 2019/03/01
更新日