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大分野 | 影響(生体応答・生物影響・健康影響を含む) |
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中分野 | 細胞・組織・個体レベルの影響 |
タイトル | (放射線の)直接作用/間接作用 |
説明 | 一般的に言えば、放射線の直接作用とは、放射線が溶質を直接電離または励起することである。一方、放射線の間接作用とは、放射線が溶媒を電離または励起し、それによって生じたフリーラジカルが溶質と化学反応を起こすことである。放射線の生物作用について考える場合、生体の大部分は水が占めることから、溶媒は水と考えてよい。また、放射線の生物作用の主因はDNA損傷であることから、溶質としてDNAに注目すればよい。したがって、多くの場合、直接作用とは、放射線がDNAを直接電離または励起すること、間接作用とは、放射線が水を電離または励起し、生じたフリーラジカルがDNAと化学反応を起こすことと考えることができる。ただし、特に、高線量被ばくの場合、タンパク質の不活性化が起こることには留意が必要である。なお、放射線生物学の黎明期においてはタンパク質への作用に注目した研究が行われ、直接作用、間接作用の概念や機構解明に大きく寄与した。 直接作用と間接作用は、フリーラジカルの関与の有無によって、いくつか異なる特性を有する。 (1)直接作用と間接作用では、溶質濃度と作用の関係が異なる。直接作用においては、不活性化される分子の数(切断されるDNA分子数と考えてもよい、以下同じ)は濃度に比例して増加するが、不活性化される分子の割合は濃度によらず一定である(図1)。一方、間接作用においては、フリーラジカルの数は溶質濃度によらず一定である。そのため、ある程度以上溶質濃度を上げても不活性化される分子の数は増えず一定となる(図1)。不活性化される分子の割合は濃度が上がるにつれて減少する。これを希釈効果という。 (2)間接作用は温度の影響を受けやすい。温度が下がるとフリーラジカルの拡散が減少するため間接効果が減少し、凍結するとさらに減少する。これを温度効果といい、後者は特に凍結効果という。 (3)間接作用は酸素の影響を受けやすい。機構について不明な部分もあるが、ラジカルが酸素と反応してさらに有害なラジカルを発生することが一因として考えられている。 (4)間接作用には、ラジカルスカベンジャー(ラジカル捕捉剤)による防護効果(保護効果)がある。ラジカルスカベンジャーとは自らラジカルと反応することで、他の分子との反応を阻害する物質である。代表的なものとして、ジメチルスルホキシド、システイン、システアミン、グルタチオンなどがあり、硫黄原子を含むものが多い(図2)。 直接作用と間接作用の寄与率は、放射線の線質によって異なる。直接作用と間接作用の寄与率は、たとえば、培地にジメチルスルホキシドを添加した場合の作用の減弱の度合いによって評価できる。一般に、重粒子線、中性子線、α線のような高LET放射線では直接作用の寄与が大きく、X線、γ線など低LET放射線では間接作用の寄与が大きい。高LET放射線は酸素効果が小さくなるため、がん組織中の低酸素細胞にも有効である。 |
キーワード | 励起 電離 フリーラジカル ラジカルスカベンジャー DNA |
図表 | 図1 溶質濃度と作用の関係 図2 フリーラジカル |
参考文献 | Hall EJ and Giaccia AJ. Chapter 1. Physics and chemistry of radiation absorption. Radiobiology for the Radiologist, Eighth Edition. Wolters Kluwar (2018) |
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作成日 | 2020/12/01 |
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