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大分野 重要論文の解説
中分野 低線量率被ばく
タイトル Risk of death among children of atomic bomb survivors after 62 years of follow-up: a cohort study.
日本語タイトル 62年間の追跡調査による原爆被爆者2世の死亡リスク:コホート研究
著者 EJ Grant ,et al.
文献情報 Lancet Oncol. 16(13):1316-1323 (2015)
説明 本研究では放射線による遺伝性影響を調べることを目的とし、広島、長崎の原爆被爆者と非被爆者の子ども約7万5千人を対象に2009年末までの死亡が追跡調査され、母親あるいは父親が受けた線量と子どものがんあるいは非がん疾患の死亡率の間に関連がないことが示された。

放射線防護の分野で遺伝性影響は確率的影響の1つとされているが、これまでヒトでは、放射線による明確な遺伝性影響が疫学研究で報告されたことはなかった。しかしこれまで受胎前に両親が相当量の放射線に被ばくした集団について、中年期の死亡率に関する調査は行われていないため、本研究では、62年間の追跡調査により原爆被爆者2世の死亡率が評価された。
研究対象は、1946年から1984年の間に生まれた広島・長崎の原爆被爆者と被爆を受けなかった人々の子ども75327人で、2009年12月31日まで死亡の追跡調査が行われ、原爆放射線による両親の生殖腺線量とがんおよび非がん疾患による死亡率の関連がCoxモデルによる解析された。追跡期間中に6567人の死亡が確認され、このうちがんによる死亡は1246人(19%)、非がん疾患による死亡は3937人(60%)含まれていた。生殖腺への被ばくがゼロではない両親では平均線量が264 mGy(標準偏差:463)であった。両親の被ばく線量と子どもの死亡率の関連の解析では、母親の生殖腺の被ばく量については、がん死亡(1Gy当たりのハザード比[HR]の変化=0.891[95%信頼区間:0.693-1.145]; P = 0.36)、あるいは非がん疾患死亡(0.973 [0.849-1.115]; P = 0.69)のいずれも関連は見られなかった。同様に、父方の被ばく線量についてもがん死亡(HR=0.815 [0.614-1.083]; P = 0.14)や非がん疾患死亡(1.103 [0.979-1.241]; p = 0.12)のいずれに対しても影響を及ぼさなかった。両親の被ばくから出産までの期間や年齢も死亡リスクに影響を及ぼさなかった。
放射線被ばくによる遺伝性影響については、原爆被爆者以外にも放射線治療を受けた患者等を対象とした研究でも広範な調査がなされているが、増加を報告する疫学的証拠はこれまでのところ得られていない。著者らも述べているように、ヒトの受胎前被ばくの影響全般を理解するには、最先端の高感度の分子生物学的技術を用いることにより疫学研究を補完する必要がある。また、動物とヒトで遺伝性影響の検出の有無になぜ違いがあるかについてもさらなる研究が必要である。
キーワード 原爆被爆者、遺伝性影響、追跡調査
図表
参考文献
参照サイト https://www.thelancet.com/journals/lanonc/article/PIIS1470-2045(15)00209-0/fulltext
DOI:https://doi.org/10.1016/S1470-2045(15)00209-0
更新日