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タイトル Radiation and Risk of Liver, Biliary Tract, and Pancreatic Cancers Among Atomic Bomb Survivors in Hiroshima and Nagasaki: 1958-2009
日本語タイトル 「Radiation and Risk of Liver, Biliary Tract, and Pancreatic Cancers Among Atomic Bomb Survivors in Hiroshima and Nagasaki: 1958-2009(広島と長崎の原爆被爆者における放射線と肝臓がん、胆道がん、膵臓がんのリスク:1958 - 2009年)」の解説
著者 Sadakane A, French B, Brenner AV, Preston DL, Sugiyama H, Grant EJ, Sakata R, Utada M, Cahoon EK, Mabuchi K, Ozasa K.
文献情報 Radiat Res.;192(3):299-310 (2019)doi: 10.1667/RR15341.1.
説明 広島・長崎の原爆被爆者の寿命調査から得られた結果は、放射線リスク評価における人の集団での主要な情報源として放射線安全基準の確立に貢献してきた。本論文は、総固形がんを対象とした研究論文[Grantら2017]の部位別解析として、肝、胆道、および膵を対象として行われたものである。解析対象者、線量推定法、追跡期間は前記論文と同一である。すなわち、寿命調査対象集団の105,444名について広島・長崎の地域がん登録に基づくがん罹患情報を用いて1958(昭和33)年から2009(平成21)年まで追跡した。DS02R1に基づく臓器別推定個人線量を用いて、これらのがんの放射線リスクを推定した。調整すべき交絡因子は、寿命調査集団に対する郵便調査や、寿命調査集団の部分集団である成人健康調査集団への調査票データから、喫煙・飲酒習慣および肥満度(Body Mass Index、以下BMI)を使用した。統計解析にはポアソン回帰モデルが用いられた。
観察期間中の肝がん罹患者は2016名であり、そのうち131名は肝内胆管がんであった。胆のうがんが354名で肝外胆道系がんが340名であった。膵がんは723名であった。
肝がんの放射線リスクは、喫煙・飲酒・BMIで調整した男女平均の過剰相対リスクとして1Gyあたり0.58(95%信頼区間 0.27, 0.95)と有意に増加していた。過剰相対リスクの推定値は調整の有無により大きく違わなかったので、これらの因子による交絡は大きくないと考えられる。これは、原爆被爆者が生活習慣等とは無関係に、無差別に被爆したことによると考えられる[Ozasaら2018]。量反応関係は直線モデルが最も適合するとのことであるが、線量カテゴリーごとのプロットをみるとかなりのばらつきもうかがえる。被ばく時年齢および到達年齢をそれぞれ単一変数とした場合の影響修飾は統計学的に有意ではなかった。しかし被ばく時年齢のカテゴリー別の1Gyあたりの過剰相対リスクは30歳未満では有意だが30歳以上では有意でなかったので、今後の観察が重要であると思われる。今回の放射線リスク推定値は2003年までの観察である前報[Prestonら2007]に比べてかなり大きくなったが、その理由について著者は追跡期間の延長と放射線被ばくをしていない場合のがん罹患推定値を爆心地からの距離別に推定したことを挙げている。
寿命調査対象集団では肝炎ウイルス抗体価などの血液検査結果は得られないので、放射線発がんに対するこれらのウイルスの影響は直接には評価できない。過去の剖検試料を利用した症例対照研究では、肝硬変を伴わない場合には、C型肝炎ウイルス感染がある場合に肝細胞癌のリスクが相乗的に高くなることが見られた[Sharpら2003]。一方、成人健康調査における症例対照研究では血清によるB型およびC型肝炎ウイルス感染と原爆放射線被ばくとの間には肝細胞癌のリスクに関する交互作用は見られないとの報告もあり[Ohishiら2011]、所見は確定していないと考えられる。
 なお、肝がんでは生検が実施しにくいことや他部位のがんの肝転移との鑑別診断の問題などがあるため、原発性肝がんに関する診断精度が異なる場合にどの程度放射線リスクが変動するかということを評価した論文が別途刊行されている[Frenchら2020]。
 胆のうおよび肝外胆道系がんの放射線リスクは、1Gyあたりの男女平均の過剰相対リスクが-0.02(95%信頼区間 -0.25, 0.30)と全く増加を示していないといえる。これは前報[Prestonら2007]とほぼ同じ結果であった。膵がんでは喫煙・飲酒・BMIで調整した男女平均の1Gyあたりの過剰相対リスクが0.45(95%信頼区間 0.07, 0.92)と有意に増加していた。前報[Prestonら2007]では無調整の点推定値が本報より小さく有意な増加を示さなかった。本報においても、調整の有無などにより若干異なるリスク推定値が示されているが、膵がんに対しても放射線リスクは見られると考えてよいと思われる。
キーワード 原爆被爆者・コホート研究・がん罹患・交絡調整(喫煙・飲酒・肥満)
図表
参考文献 French B, et al. Misclassification of Primary Liver Cancer in the Life Span Study of Atomic Bomb Survivors. Int J Cancer., (2020) doi: 10.1002/ijc.32887.
Grant EJ, et al. Solid Cancer Incidence among the Life Span Study of Atomic Bomb Survivors: 1958-2009. Radiat Res., 187(5):513-537(2017) doi: 10.1667/RR14492.1.
Ohishi W, et al. Impact of radiation and hepatitis virus infection on risk of hepatocellular carcinoma. Hepatology, 53(4):1237-45(2011) doi: 10.1002/hep.2420
Ozasa K, et al. Japanese Legacy Cohorts: The Life Span Study Atomic Bomb Survivor Cohort and Survivors’ Offspring. J Epidemiol., 28(4):162-169(2018) doi.org/10.2188/jea.JE20170321
Preston DL, et al. Solid Cancer Incidence in Atomic Bomb Survivors: 1958-1998. Radiat Res., 168(1):1-64(2007) doi: 10.1667/RR0763.1.
Sharp GB, et al. Hepatocellular carcinoma among atomic bomb survivors: significant interaction of radiation with hepatitis C virus infections. Int J Cancer., 103(4):531-7(2003)doi: 10.1002/ijc.10862.
参照サイト
更新日 2020年12月