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大分野 | 重要論文の解説 |
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中分野 | 低線量率被ばく |
タイトル | Prominent Dose-Rate Effect and Its Age Dependence of Rat Mammary Carcinogenesis Induced by Continuous Gamma-Ray Exposure |
日本語タイトル | 連続ガンマ線被ばくによって誘発されるラット乳腺発がんの顕著な線量率効果とその年齢依存性 |
著者 | Imaoka T, Nishimura M, Daino K, Hosoki A, Takabatake M, Nishimura Y, Kokubo T, Morioka T, Doi K, Shimada Y, Kakinuma S |
文献情報 | Radiat Res 191(3), 245-254, 2019 |
説明 | 乳がんは、高線量率被ばく後にリスクの増加が鋭敏に検出される病気の一つであり、特に初経前後で被ばくするとリスクが高くなる[Brenner, A. V., et al., 2018]。一方、高線量率と低線量率で被ばくした集団の乳がんリスクを比較した試みはあるが、統計学的検出力の問題や、放射線の種類や対象集団の民族が調査間で異なる等の課題がある。また、乳がんの線量率効果を調べた動物実験には、成体期のラットで様々な高線量率分割照射の効果を調べたオランダの研究があるが[Bartstra, R. W., et al., 2000]、連続照射を行った実験は少なく、限られた線量率、限られた年齢の知見しかなかった。本論文では、ラットを用いた連続γ線照射実験を行い、どのような線量率で乳がんのリスクが高くなるか、思春期前後の年齢でそのリスクが異なるかどうかを報告し、年齢別の線量率効果係数を推定している。 実験1では、7週齢の雌ラットに線量率3, 6, 12, 24, 60mGy/時で累積4Gyの137Csガンマ線を照射し、非照射群を1とした乳がんリスク(ハザード比)を求め、高線量率群(30Gy/時)と比較した(図1)。その結果、線量率60mGy/時及び30Gy/時では、乳がんリスクは非照射群と比較して有意に増加した。一方、3 - 24mGy/時では有意な増加は観察されなかった(図2A)。乳腺の良性腫瘍に関しては、6 - 60mGy/時と30Gy/時でリスクの有意な増加が観察され、3mGy/時では観察されなかった(図2B)。 実験2では、思春期前後の年齢依存性を調べるため、3週齢(思春期前)または7週齢(思春期後)の雌ラットに線量率6mGy/時でそれぞれ累積1, 2, 3, 4Gyまたは1, 2, 4, 6, 8Gyを照射して同様に観察し(図3A)、3, 7, 13週齢の雌ラットに線量率30Gy/時で0 - 4Gyを照射した新規及び過去[Imaoka, T., et al., 2013, Takabatake, M., et al., 2018]の実験群のデータと比較解析した(図3B)。その結果、6mGy/時で照射後の累積線量1Gy当たりの乳がんリスクの増加は、3週齢群では7週齢群より大きかった(図4A及びB)。乳腺の良性腫瘍に関しては、年齢による違いを示唆する証拠はなかった。30Gy/時で照射後の乳がんリスクの線量効果関係は、年齢間でほとんど同等だった(図4C-E)。統計モデルを用いて線量率効果係数を推定すると、3週齢では2.4(95%信頼区間は1.4 - 11)、7週齢では9.4(同4.1 - ∞)という値が得られた。 本論文は、少なくともラットの場合、低線量率照射による乳がんリスクが高線量率より低く、思春期前後の年齢に依存して変動する証拠を示しており、放射線防護体系における線量率効果の採り入れの検討において重要な知見の一つとなる。また、動物実験の結果をヒトに適用するにはメカニズムの理解が必要であり、線量率や年齢の効果がどのように起こるのかを解明することは、今後の重要な課題である。 |
キーワード | 動物実験 低線量率 乳がん 年齢 線量率効果 |
図表 | 図1 様々な線量率で累積4Gyを照射した実験1の模式図。 図2 様々な線量率で累積4Gy照射した後のラットの乳がん(A)及び乳腺の良性腫瘍(B)のハザード比。** P < 0.01、*** P < 0.001(非照射群に対し)。縦棒は95%信頼区間(かっこ内の数値は上限値)。 図3 思春期前後あるいは成体における照射を行った実験2の模式図。(A)連続照射。(B)高線量率実験群(3及び7週齢は過去のデータ)。一部の実験群は図1と共通。 図4 思春期前後あるいは成体(A, B)のラットに6mGy/時で、もしくは3、7、13週齢(C, D, E)のラットに高線量率で様々な線量を照射した後の乳がんのハザード比。* P < 0.05、** P < 0.01、*** P < 0.001(非照射群に対し)。縦棒は95%信頼区間(かっこ内の数値は上限値)。 |
参考文献 | ・Brenner, A. V., et al., Incidence of Breast Cancer in the Life Span Study of Atomic Bomb Survivors: 1958-2009, Radiat Res 190(4), 433-444(2018) https://meridian.allenpress.com/radiation-research/article/190/4/433/150713/Incidence-of-Breast-Cancer-in-the-Life-Span-Study ・Bartstra, R. W., et al., The Effects of Fractionated Gamma Irradiation on Induction of Mammary Carcinoma in Normal and Estrogen-Treated Rats, Radiat Res 153(5), 557-569 (2000) https://meridian.allenpress.com/radiation-research/article/153/5/557/331170/The-Effects-of-Fractionated-Gamma-Irradiation-on ・Imaoka, T., et al., Influence of Age on the Relative Biological Effectiveness of Carbon Ion Radiation for Induction of Rat Mammary Carcinoma, Int J Radiat Oncol Biol Phys 85(4), 1134-1140 (2013) https://www.redjournal.org/article/S0360-3016(12)03455-4/fulltext ・Takabatake, M., et al., Differential effect of parity on rat mammary carcinogenesis after pre- or post-pubertal exposure to radiation., Sci Rep 8(1), 14325 (2018) https://www.nature.com/articles/s41598-018-32406-1 |
参照サイト | https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30543491/ https://www.qst.go.jp/site/press/20432.html |
更新日 | 2020年12月 |
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