提供: SIRABE
移動先: 案内検索
大分野 防護(放射線管理・規制を含む)
中分野 疫学・リスク評価
タイトル ALPS処理水の海洋放出
説明 1.ALPS処理水の希釈方法
多核種除去設備等処理水(ALPS処理水)の海洋放出に係る放射線影響評価報告書(案)が東京電力(TEPCO、現・東京電力ホールディングス)により公表されている(「本報告書は海洋放出に係る計画の設計・運用に関する検討の進捗、各方面からの意見、IAEAの専門家によるレビュー、第三者評価によるクロスチェックなどを通じて得られる知見の拡充により、適宜見直していくものである。」と記載されており、更新されていると記載されている。)[TEPCO, 2022a]。評価の前提として、放出するALPS処理水はトリチウム以外の62核種および炭素14の告示濃度比総和が1未満となるまで浄化したもので、トリチウムの年間放出量は事故前の福島第一原子力発電所の放出管理目標値である22兆Bq未満とする。放出にあたっては、海水により100倍以上に希釈し、排出口でのトリチウム濃度を1,500Bq/L未満とする。これにより、トリチウム以外の62核種および炭素14の告示濃度比総和も100分の1未満に希釈される。また希釈後のALPS処理水が放出後に、希釈用の海水として再取水されにくくするため、発電所沖合約1kmの海底より放出し、ALPS処理水の希釈率や性状に異常が発生した場合は、緊急遮断弁を速やかに閉じるとともに、ALPS処理水の移送ポンプを停止して放出を停止することになっている。

2.ALPS処理水の海洋放出による環境影響(放出後の影響)評価について
評価手順は、国際原子力機関(IAEA)の安全基準文書(GSG-9[IAEA, 2018a]及びGSG-10[IAEA, 2018b])に従い、人に対する評価と環境防護(ヒト以外の生物)に関する評価が行われ、発電所の線量目標値(0.05 mSv/年)および一般公衆の線量限度(1 mSv/年)と比較や生物種ごとに定められた誘導考慮参考レベルと比較し判定することになっている。また海域における拡散評価は福島原発事故後の海水中セシウム濃度の再現計算で再現性が確認されたモデルを使用し、発電所近傍海域を詳細にシミュレーションできるよう高解像度化して計算された。2019年の気象・海象データを使って評価した結果、現状の周辺海域の海水に含まれるトリチウム濃度(0.1 - 1 Bq/L)よりも濃度が高くなると評価された範囲は、発電所周辺の2 - 3 kmの範囲に留まった。放出口の直上付近ではトリチウム濃度が30 Bq/Lを示す海域もあったがその周辺では速やかに濃度が低下した。64核種の実測値による評価結果は、海産物を平均的に摂取する人では一般公衆の線量限度(年間1mSv)の約6万分の1 -約1万分の1、自然放射線による被ばく(年間2.1mSv)との比較では約12万分の1 -約2万分の1であった。この評価では不検出核種については検出下限値で存在すると仮定しているため、実際の結果はさらに低くなるとされている。ヒト以外生物の被ばくの影響が相対的に大きい核種だけが含まれると仮想したALPS処理水を用いて非常に保守的に評価した場合でも、評価上の基準である誘導考慮参考レベル(扁平魚1 - 10 mGy/日、カニ10 - 100 mGy /日、褐藻1 - 10 mGy /日)の約130分の1 -約120分の1程度(カニでは約1,300分の1 -約1,200分の1)程度であった。

3.ALPS処理水の海洋放出に伴うモニタリング計画
ALPS処理水に係る海域環境モニタリングは、総合モニタリング計画におけるALPS処理水に関わる海域環境モニタリングの強化にあたりその妥当性等について助言するために設置された海域モニタリング専門家会議において,環境省および原子力規制委員会(以下,国)の強化計画が検討された。風評影響の抑制につながるよう客観性・透明性・信頼性を最大限高めたモニタリングとし、IAEAによる分析機関間比較の取組等を通じた信頼性の確保やモニタリングへの地元関係者の立ち合いなどを通じた透明性の確保を図ることを念頭に放出の前後の海域のトリチウム濃度の変動を把握するためのモニタリングが実施される[環境省、2022a]。
TEPCOは、ALPS処理水放出の実施主体として,放水口周辺を中心に重点的にモニタリングを実施することとし,発電所近傍と福島県沿岸において海水と魚類中のトリチウムを測定する試料数を増やし,福島原発近傍において海藻類のトリチウムおよびヨウ素-129を測定する。魚類は, ICRPに示される放射線影響評価の対象である海底に生息する魚類かつ,福島原発周辺海域に広く生息するヒラメまたはカレイ類を選定し,モニタリングの対象とする。測定の頻度は、季節的な変化を考慮し年4回の実施予定である。主要7核種(セシウム-134、セシウム-137、コバルト-60、ルテニウム-106、アンチモン-125、ストロンチウム-90、ヨウ素-129)についても一部の測点で年4回測定を実施し、関連の深い核種についても年1回は測定を実施する。魚類中のトリチウムは、組織自由水型と有機結合型のモニタリングを実施し、魚類中の炭素-14と海藻類のヨウ素-129についても測定を実施する[TEPCO、2022b]。またALPS処理水を用いた海洋生物の飼育試験も行われている[TEPCO、2022c]。モニタリングや試験等の結果は随時TEPCOのサイトで公開している。また、海洋放出を想定し、海洋放出前の状況も含めて、環境省、原子力規制委員会原子力規制庁、水産庁および福島県も水産物や海域環境モニタリングを実施している[環境省、2022b]。海域モニタリング結果のわかりやすい公表について、TEPCOはホームページの処理水ポータブルトップページ海域モニタリングのバナーを追加している。2023年(令和5年)2月頃に環境省はALPS処理水に係る海域環境モニタリングの結果を分かりやすく情報発信するための新規Webサイトの立ち上げを予定している。[環境省、2022c]
キーワード 福島第一原発事故 放射性核種 
図表
参考文献 ・International Atomic Enegy Agency, IAEA Safety Standards Series No.GSG-9 ”Regulatory Control of Radioactive Discharges to the Environment”, (2018a)
https://www.iaea.org/publications/12197/regulatory-control-of-radioactive-discharges-to-the-environment
・International Atomic Enegy Agency, IAEA Safety Standards Series No.GSG-10 “Prospective Radiological Environmental Impact Assessment for facilities and Activities”, IAEA,(2018)
https://www.iaea.org/publications/12198/prospective-radiological-environmental-impact-assessment-for-facilities-and-activities
・TEPCO、多核種除去設備等処理水(ALPS処理水)の海洋放出に係る放射線影響評価報告書(案)、(2022a)  https://www.nra.go.jp/data/000387048.pdf
・TEPCO、東京電力が実施するALPS処理水に係る海域環境モニタリングについて、2022年3月30日 (2022b)、https://www.env.go.jp/content/900544155.pdf
・TEPCO、海洋生物の飼育試験、第1回 ALPS処理水モニタリングシンポジウム、2022年10月25日 (2022c)、https://www.tepco.co.jp/decommission/progress/watertreatment/images/221026.pdf
・環境省、総合モニタリング計画、2022年3月30日、(2022a) https://radioactivity.nsr.go.jp/ja/contents/17000/16438/25/204_01_20220331_r3.pdf
・環境省、モニタリング調整会議(令和4年3月30日) (2022b)、https://www.env.go.jp/water/shorisui/monitoring/014.html
・環境省、モニタリング調整会議(令和4年12月14日) (2022c)、
https://www.env.go.jp/water/shorisui/committee/006.html
参照サイト TEPCO、処理水ポータルサイト、https://www.tepco.co.jp/decommission/progress/watertreatment
作成日 2022年12月
更新日