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分野
東電福島第一原発事故において、空間線量等による推計値とガラス線量計等による実測値の関係はどうなっているのでしょうか。
答え NaI(Tl)シンチレーション式検出器を用いた空間線量サーベイメータは、周辺線量当量率H*(10)を計測し、ガラス線量計などの個人被ばく線量計は個人線量当量Hp(10,0°)を計測している。どちらも実用量であり、単位はSvである。また人体中の各臓器・組織への影響を評価した実効線量Eよりも安全側の値を示す。線量当量換算係数と実効線量換算係数から、これらの線量当量は実効線量(後述のAP体系)よりも約2割大きな値を示す。換算係数はガンマ線吸収線量1Gy当たりの線量を示すものである。
この個人線量当量は身体の正面からのみガンマ線を被ばくした場合に対応しており、一般的な放射線作業のように、ガンマ線を正面から被ばくした場合には、周辺線量当量と個人被ばく線量当量はほぼ同じ値になる。
しかし、周囲の広い範囲が放射性物質で汚染した環境中で活動した場合、この人は全方位からガンマ線を被ばくする状況となる。この状況下で身体に装着された個人被ばく線量計は個人線量当量の照射条件(校正条件)を満足していないため、個人線量当量を正しく計測できていない。この状況下で個人被ばく線量計が計測している放射線の量について以下に概算する。ここで実効線量の照射体系であるAP体系(人体の正面から後方へガンマ線を照射)、ROT体系(人体を中心軸で回転させながら、人体の側面からガンマ線を照射)、ISO体系(人体を取り囲む球面上からガンマ線を照射)を考える。個人線量当量の照射はAP体系に近く、環境中が汚染した屋外での被ばくはROT体系やISO体系に近い。実効線量換算係数の数値から、ROT体系とISO体系の換算係数はAP体系の換算係数よりも2~3割ほど低い値を示している。これは人体の遮蔽効果のためである。このことから、個人被ばく線量計も個人線量当量よりも2~3割ほど低い数値を示すと推測される。
すなわち個人被ばく線量計は空間線量よりも2~3割ほど低い数値を示すことがある。また、先述の線量当量と実効線量の比率を考慮すると、個人被ばく線量計は実効線量とほぼ同じ値を示すと考えられる。
これは理想的なガンマ線による照射体系であり、実際のガンマ線による照射体系は複雑であり場所により異なるためこれらの比率も変化すると考える。
実際の調査により、胸に装着した個人被ばく線量計の数値は、成人男性の場合、0.7、子供の場合、0.8を周辺線量当量率に時間を掛け合わせた線量に乗じたものであった。すなわち、個人被ばく線量計は、空間線量率サーベイメータに時間を掛け合わせた線量よりも2~3割ほど低い値を示した。
キーワード 周辺線量当量、個人線量、実効線量
図表 図1 実効線量のAP,ISO,ROT体系の図
図2 個人線量当量と個人被ばく線量計校正の概略図
図3 環境中が汚染した場所での被ばくの概略図
参考文献 ・ICRP Publication 74 外部放射線に対する放射線防護に用いるための換算係数(1998)
・中村 尚司「放射線物理と加速器安全の工学(第2版)」 地人書館、東京(2001)
・日本原子力研究開発機構、放射線医学総合研究所、東京電力(株)福島第一原子力発電所事故に係る個人線量の特性に関する調査(H26年4月)
関連サイト 日本原子力研究開発機構、放射線医学総合研究所、「東京電力(株)福島第一原子力発電所事故に係る個人線量の特性に関する調査」の追加調査 -児童に対する個人線量の推計手法等に関する検討- 報告書(H27年3月)
https://fukushima.jaea.go.jp/initiatives/cat01/pdf/report201503.pdf
作成日 2018/02/28
更新日