提供: SIRABE
大分野 | 線源(計測・評価を含む) |
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中分野 | 線量・単位 |
タイトル | 放射性廃棄物の処分 |
説明 | 1 はじめに ウラン等の核燃料物質を用いた原子力発電及び原子力の研究開発や放射性同位元素を用いた病気の診断及び治療並びに産業活動等に伴って、多種多様の放射性廃棄物が発生している。発生量が最も多い原子力発電からの放射性廃棄物発生量でも、火力発電から発生する廃棄物量と比べ、非常に少ない[World Nuclear Association、以下WNA,2020a]。また、放射性廃棄物は、含有されている放射性核種が有する固有の半減期に従って、時間の経過とともに放射能が減少するという特性を有する。加えて、放射性廃棄物の発生量を低減させることは可能であるし、放射性廃棄物を発生させる者は、発生量を最小化するための努力を行う必要がある[IAEA,2006]。しかしながら、その発生量を完全にゼロにすることはできない。そのため、放射性廃棄物の発生事業者は、発生した放射性廃棄物を安全に管理する責務を有する。放射性廃棄物の管理は、放射性廃棄物の発生で始まり、処分で終わる一連のプロセスで構成されている。本解説では、放射性廃棄物管理の最終段階に当たる処分に焦点を当てながら、放射性廃棄物管理の一連のプロセスについて概観する。 2 放射性廃棄物の分類 放射性廃棄物は、その後の管理を安全かつ適切に実施するために、処理を行う観点からの分類と処分を行う観点からの分類が行われる。表1に、処理を念頭に置いた放射性廃棄物の分類例を示す。ここで、適切な管理とは、放射性廃棄物が潜在的に有する放射線学的な危険性に応じた管理を行うことであり、管理において放射性廃棄物管理に投入できる有限の人的・経済的資源を有効活用することが望ましいとされている[IAEA, 2006]。その一環として、放射性物質による汚染物であっても、その放射線影響が無視できる程度に小さく、放射線防護の観点から管理する必要がない場合には、通常の廃棄物と同様に処分又は有価物として再利用することを可能とする制度(いわゆるクリアランス制度)が日本も含め、様々な国で実施されている[電気事業連合会, 2020]。 3 放射性廃棄物管理 放射性廃棄物は、最終的に安全に処分(回収する意図を持たずに適切な施設に廃棄物を定置すること)されることになるが、大概の放射性廃棄物は、処分を行う前に、処理を行う必要がある。処理の主たる目的は、放射性物質の除去、減容化と安定化である。なお、廃棄物を輸送、貯蔵、処分に適した形状に変化させるための処理、例えば、液体廃棄物をセメント固化して処分容器(例えば、ドラム缶)に封入する処置を調整と称することがある[WNA, 2020a]。放射性廃棄物管理の流れを図1に示す。なお、処理や処分を実施する前に、放射能を減衰させる目的等で、一時的な貯蔵が行われることがある。 一連の廃棄物管理の過程で、廃棄物処理施設等の周辺住民が被ばくする可能性がある。住民が受ける放射線量は、法令に定められた線量限度を遵守するだけでは不十分であり、国際放射線防護委員会(ICRP)が勧告しているように、「被ばくする可能性、被ばくする人の数及びその人たちの個人線量の大きさを、経済的・社会的要因を考慮の上、合理的に達成できる限り低く保つ」[ICRP, 2013]ことができるように、廃棄物処理施設等の設計及び運転管理を行う必要がある。 4放射性廃棄物の処理方法[WNA, 2020a][長崎信也, 中山真一, 2011] 気体状又は液体状の放射性廃棄物の場合、処分を行う前に、廃棄物中の放射性物質の除去が広く行われている。放射性気体廃棄物中の放射性物質の代表例には、粒子状物質、放射性ヨウ素とキセノン、クリプトン等の放射性希ガスがある。これらの気体廃棄物を処理するための代表的な方法は、ろ過(吸着)法、減衰法及び希釈法である。粒子状の放射性物質を含む気体廃棄物の処理方法には、ろ過が使用される。多くの場合、数ミクロンからサブミクロンの粒子が捕集対象となり、その中でも粗い粒子はプレフィルタ(前置フィルタ)によって、細かい粒子は直径0.3μmの粒子に対して99.97%以上の捕集性能を有する高性能粒子フィルタによって捕集される。放射性ヨウ素は、ヨウ素の吸着性能に優れた活性炭を添加したフィルタが使用される。放射性希ガスは、比較的短半減期の放射性核種が多いこと、フィルタによる除去が困難なため、活性炭に吸着させる等の減衰効果を用いた処理が行われる。 放射性液体廃棄物の処理方法には、凝集沈殿、イオン交換、ろ過及び蒸発濃縮処理[ICRP, 2013]があり、これらの方法を単独又は組み合わせて用いる。どの処理方法を選定するかは、廃液の量、特性(放射能レベル、溶存イオン量、固形分量等)、除染した廃液の排水基準、処理により発生する濃縮物の調整方法等を考慮に入れて決められる。 固体状の放射性廃棄物のうち、紙、布等の有機系廃棄物は、安定化と減容化の観点から、焼却処理が通常行われる。一方、金属、ガラス等の無機系廃棄物は、処分対象物の容積を減らす目的で、薄肉の金属やガラスは圧縮処理が、また、厚肉の金属等は溶融処理が行われることがある。 表2に放射性廃棄物の種類ごとの代表的な処理方法を示す。 5 放射性廃棄物の処分方法[Sant'ana, L. P. and Cordeiro, T. C.., 2016][WNA, 2020b][Chapman, N. A.,2019] 放射性廃棄物処分の基本的な考え方は、処分した放射性物質が、地下水等の媒体を通じて生物圏に戻ってくる量や濃度がいずれの放射性核種についても、無害となるように、希釈又は隔離することである[WNA, 2020a]。具体的には、気体状及び液体状の放射性廃棄物のうち、法令に定める排気及び排水に係る濃度限度以下のものは、施設の放出点(排気口と排水口)で放射能濃度の測定をしながら環境(大気圏及び水圏)中に排出している(拡散型処分)。一方、排水濃度限度を上回る液体廃棄物をセメント等で固形化したもの及び元々固体状の放射性廃棄物については、天然バリアと人工バリアを適切に組み合わせながら地中に埋設処分を行い、その後、処分場を一定期間管理することが基本方針となっている (管理型又は隔離型処分)。したがって、拡散型処分が可能な気体廃棄物と液体廃棄物以外は、地中に埋設処分する必要がある。過去には、低レベル放射性廃棄物を深海に海洋投棄することが検討されていたが、現在は、国際条約により禁止されている。 埋設処分は、対象となる放射性廃棄物に含まれる放射性核種の種類と放射能レベルに応じて、埋設処分する深度、管理期間の長短や放射性物質の移行抑制機能、すなわち、人工バリア(例えば、鉄筋コンクリート製の構造物)及び天然バリア(埋設処分した廃棄物の周囲にある岩や土壌)を適切に組み合わせた多重バリアの考え方によって行われる。 具体的には、廃棄物中の主たる放射性核種が、半減期が30年程度のSr-90やCs-137であって、埋設処分をした廃棄物を300年程度管理している間の物理的な減衰効果により周辺環境への放射線影響が基準値を下回る場合には、管理型の処分方式を採用することが可能となる。一方、使用済核燃料の再処理に伴って発生する放射能レベルが非常に高くかつ長寿命の放射性核種を多く含有する高レベル廃棄物のような廃棄物の場合には、管理期間中の減衰効果を期待すると、管理期間が非常に長期になるため現実的ではない。このため、人間環境から遠く離れた安定な地層(数百メートル以深)中に人工バリアを適切に組み合わせて埋設処分する隔離型の地層処分が検討されている。。なお、地層処分の一形態として、使用済密封線源のように物量は少ないが、比較的放射能量が大きい放射性廃棄物の処分を行うためのボアホール型処分施設の概念がある。地層処分にも利用可能なボアホール型処分施設は、掘削した小口径(直径30 - 50cm)の縦穴を利用した処分施設であり、深度の選択肢が他の処分方法に比して裕度が高く、5㎞程度の深度に放射性廃棄物を処分することが技術的に可能である。その結果、生物圏との離隔距離を大きくとることができるし、地下水の流れがほとんどないことから、放射性物質の影響を低減することが可能となる。地層処分は、高レベル放射性廃棄物等の処分のための最善の解決方法であることが諸外国においても広く合意されている。 表3に処分方法の概念と処分対象廃棄物の例を示す。 6まとめ 放射性廃棄物の処分は、放射性廃棄物を発生させる行為(原子力発電、放射性物質を利用した治療等)から恩恵を受けた世代が解決を先延ばしすることなく、責任を持って進める必要がある。また、高レベル放射性廃棄物のように、その放射線影響が長期にわたって継続する場合には、その時点で利用可能な最良の技術を用いて、自分たちの世代だけではなく、将来世代が等しく防護されるように放射性廃棄物処分を実施する必要がある[IAEA,2006]。 放射性廃棄物の処分は、技術的な課題に加えて、社会的受容性の課題を抱えている。このような課題を解決し、処分を円滑に進めるためには、以下の事項が重要となる。 ・規制機関の独立性の確保 ・国際的・国内的に整合性がとれており、かつ、科学的に合理性のある廃棄物管理方策と法規制の整備 ・手続きの透明性の確保:段階を踏んだ合意プロセスの実施と合意決定の可逆性と処分施設に定置した放射性廃棄物の回収可能性の検討 ・合意プロセスに関係者が関与できる機会の確保 ・安全性に関する十分な説明:セイフティケース(安全文書;安全評価の結果を裏付けるさまざまな証拠や論拠)の作成、国際原子力機関(IAEA)等による国際的なピアレビューの受審 ・環境防護の視点:人間のみならず、他の生物種、景観の保護等への配慮 これらの課題については、各国が共通的に抱えている課題でもある。このため、すべての国が、放射性廃棄物管理に使用している方策や方法論を共有するために、また、放射性廃棄物処理・処分の正しい基準を確立するためにも、国際協力が重要である[Sant'ana, L. P. and Cordeiro, T. C., 2016]。 |
キーワード | 放射性廃棄物 廃棄物管理 |
図表 | 表1 処理の観点からの放射性廃棄物分類例 表2 放射性廃棄物の種類別の代表的な処理方法 表3 放射性廃棄物の処分概念と対象廃棄物 図1 放射性廃棄物管理の流れ |
参考文献 | ・International Atomic Energy Agency, IAEA Safety Standards, Fundamental Safety Principles, No. SF-1 (2006) ・International Commission on Radiological Protection, Radiological Protection in Geological Disposal of Long-Lived Solid Radioactive Waste, ICRP Publication 122, Annals of the ICRP Volume 42 No. 3, (2013) ・Sant'ana, L. P. and Cordeiro, T. C., Management of radioactive waste: A review, Proceedings of the International Academy of Ecology and Environmental Sciences, 6(2), 38-43(2016) ・長崎信也, 中山真一共編, 放射性廃棄物の工学, オーム社, (2011) ・Chapman, N. A., Who Might Be Interested in a Deep Borehole Disposal Facility for Their Radioactive Waste, Energies, 12(8), (2019) |
参照サイト | ・電気事業連合会, クリアランス制度, Available at: https://www.fepc.or.jp/nuclear/haishisochi/clearance/index.html, 閲覧2020年9月9日 ・World Nuclear Association, Radioactive Waste Management, Available at: https://www.world-nuclear.org/information-library/nuclear-fuel-cycle/nuclear-wastes/radioactive-waste-management.aspx, 閲覧2020年9月9日a ・World Nuclear Association, Storage and Disposal of Radioactive Waste, Available at: https://www.world-nuclear.org/information-library/nuclear-fuel-cycle/nuclear-waste/storage-and-disposal-of-radioactive-waste.aspx, 閲覧2020年9月9日 |
作成日 | 2020年12月 |
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