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大分野 防護(放射線管理・規制を含む)
中分野 疫学・リスク評価
タイトル 告示濃度限度
説明 日本における、放射線業務従事者が作業する管理区域内における空気中の放射性物質の濃度、公衆の居住する空気中の放射性物質の濃度、または水中の放射性物質の濃度の上限値を濃度限度という。濃度限度は、告示「放射線を放出する同位元素の数量等を定める件(以下「RI数量告示」という)の「別表第2」、及び「核原料物質又は核燃料物質の製錬の事業に関する規則等の規定に基づく線量限度等を定める告示(以下「線量限度等告示」という)」の「別表第一」等で定められている。前者は放射性同位元素等の規制に関する法律施行規則、後者は核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(以下、「炉規法」という)に係る諸規則に規定する濃度限度を定めている。以下に示すように、それぞれで対応している項目の数値は同一である。

空気中に存在する放射性物質からの被ばく線量
空気中に放射性物質(不活性ガス等を除く)が存在する場合、放射性物質が呼吸によって体内に取り込まれ、体内の臓器に移行、蓄積して被ばくをもたらす経路が主な被ばく経路となる。この場合、吸入による実効線量は以下の式で与えられる。
実効線量 = 空気中濃度×線量係数×呼吸率×呼吸時間
ここで、線量係数は、放射性物質を単位量吸入した場合の実効線量である。現在の告示において、この線量係数は、ICRP1990年勧告に基づく線量推定モデルを用いて計算されている。
また、不活性ガスの放射性物質は、呼吸によって体内に取り込まれ、臓器に蓄積することことがない。よって、線量率係数を用いて計算を行う。
実効線量 = 空気中濃度×線量率係数×滞在時間
ここで、線量率係数は、単位濃度の放射性物質が空気中に均一に存在する場合の、単位時間当たりの実効線量である。

空気中濃度限度(放射線業務従事者
放射線業務従事者が作業する管理区域内における空気中の放射性物質の濃度は、RI数量告示では「第四欄 空気中濃度限度(Bq/cm3)」、「線量限度等告示」では、「放射線業務従事者の呼吸する空気中の濃度限度(Bq/cm3)」として定められている。
不活性ガス以外の空気中濃度は、以下の式で算出される。
空気中濃度(Bq/cm3
= 1 (mSv/週)/[線量係数 (mSv/Bq)×呼吸率(cm3/時間)×作業時間(時間/週)]
呼吸率は作業者に対する呼吸率で、1.2×106(cm3/時間)が用いられる。作業時間は作業者の作業時間で、40時間/週が用いられる。すなわち、この空気中濃度は、作業者がその環境において40時間/週作業した場合に、実効線量が1mSv/週となる値である。なお、トリチウム水については、呼吸に加えて、皮膚を通じての吸収も考慮し、この式で求められた空気中濃度の3分の2の値が用いられている。
不活性ガス等の空気中濃度は、以下の式で算出される。
空気中濃度(Bq/cm3
= 1 (mSv/週)/[線量率係数 ((mSv/時間)/(Bq/cm3))×作業時間(時間/週)
不活性ガス等以外の場合と同様に、作業時間は40時間/週が用いられる。この方法で計算された放射性物質は、告示別表の「化学形等」の欄に「サブマージョン」と記載されている。
なお、放射線業務従事者に対する空気中濃度限度は、一週間についての平均濃度に対して用いられる。

空気中濃度限度(公衆)
公衆が居住する地域における空気中の放射性物質の濃度は、RI数量告示では「第五欄 排気中又は空気中の濃度限度(Bq/cm3)」、「線量限度等告示」では、周辺監視区域外の空気中の濃度限度(Bq/cm3)」として定められている。これは、炉規法に係る関係法令においては、周辺監視区域内には公衆が居住できないことが定められているためである。
これらの空気中濃度は、対象者が公衆であることから、年齢依存性を考慮して以下の式で算出される。
空気中濃度(Bq/cm3)= 1 (mSv/年)×70(年)/Σ(3月児→成人)(各年齢層の線量係数 (mSv/Bq)×各年齢層の呼吸量(cm3/年)×適用年数(年))
 
この式は、年齢依存性を考慮して、ある一人の人が誕生してから70歳になるまでの期間について、この空気中濃度の環境で生活して、年平均の実効線量が1mSvとなる濃度である。
 各年齢層とその呼吸量、及び適用年数は以下のように与えられている。
  年齢層       各年齢層の呼吸量          適用年数
 0歳≦3月児<1歳  2.86×106(cm3/日)×365(日/年) 1年間
 1歳≦1歳児<3歳  5.16×106(cm3/日)×365(日/年) 2年間
 3歳≦5歳児<8歳  8.72×106 (cm3/日)×365(日/年) 5年間
 8歳≦10歳児<13歳  1.53×107(cm3/日)×365(日/年) 5年間
13歳≦15歳児<18歳  2.01×107 (cm3/日)×365(日/年) 5年間
18歳≦成 人<70歳  2.22×107 (cm3/日)×365(日/年) 52年間

不活性ガス等については、年齢依存性を考慮せず、以下の式で評価している。
空気中濃度(Bq/cm3)= 1 (mSv/年) ×70年/[線量率係数((mSv/年)/(Bq/cm3))×70年]
なお、公衆に対する空気中濃度限度は、三月間についての平均濃度に対して適用される。

水中に存在する放射性物質による被ばく線量
水中に放射性物質がある場合、放射性物質が飲用水として経口摂取されて体内に取り込まれ、体内の臓器に移行、蓄積して被ばくをもたらす経路が主な被ばく経路となる。この場合、経口摂取による実効線量は以下の式で与えられる。
実効線量=水中濃度×線量係数×摂水量×摂水期間
ここで、線量係数は、放射性物質を1Bq経口摂取した場合の実効線量である。現在の告示において、この線量係数は、ICRP1990年勧告に基づく線量推定モデルを用いて計算されている。

水中濃度限度(公衆)
 放射線業務従事者が管理区域内で水を摂取することは禁止されているため、水中濃度限度は公衆に対してのみ設定されている。この水中濃度は、RI数量告示では「第六欄 廃液中又は排水中の濃度限度(Bq/cm3)」、「線量限度等告示」では、「周辺監視区域外の水中の濃度限度(Bq/cm3)」として定められている。これらの水中濃度は、対象者が公衆であることから、年齢依存性を考慮して以下の式で算出される。
水中濃度(Bq/cm3)= 1 (mSv/年)×70(年)/Σ(3月児→成人)(各年齢層の線量係数(mSv/Bq)×各年齢層の摂水量(cm3/年)×適用年数(年))
この式は、年齢依存性を考慮して、ある一人の人が誕生してから70歳になるまでの期間について、この水中濃度の水を飲み続けて、年平均の実効線量が1mSvとなる濃度である。
 各年齢層とその摂水量、及び適用年数は以下のように与えられている。
  年齢層       各年齢層の摂水量          適用年数
 0歳≦3月児<1歳  1.4×103 (cm3/日)×365(日/年) 1年間
 1歳≦1歳児<3歳  1.4×103 (cm3/日)×365(日/年) 2年間
 3歳≦5歳児<8歳  1.6×103 (cm3/日)×365(日/年) 5年間
 8歳≦10歳児<13歳  1.8×103 (cm3/日)×365(日/年)  5年間
 13歳≦15歳児<18歳  2.4×103 (cm3/日)×365(日/年) 5年間
 18歳≦成 人<70歳  2.65×103 (cm3/日)×365(日/年)  52年間
なお、公衆に対する水中濃度限度は、三月間についての平均濃度に対して適用される。

複数の放射性物質に対する適用など
濃度限度は、放射性物質の種類(核種及び化学形等)毎に、上記の方法によって算出され、上述した告示別表に記載されている。放射性物質の種類が明らかでない場合は、当該空気あるいは水に含まれている可能性のある放射性物質の中から、最も低い値を適用する。また、放射性物質の種類が2種類以上の場合は、それぞれの濃度の濃度限度に対する割合の和(分数和)が一となるような濃度が濃度限度となる。
放射性物質の種類(核種及び化学形等)が明らかで、上述した告示別表に記載されていない場合の濃度限度は、アルファ線放出の区分及び物理的半減期の区分毎に、濃度限度が与えられている(RI数量告示別表第3及び線量限度等告示別表第二)。
キーワード 放射線を放出する同位元素の数量等を定める件(数量告示)、線量限度告示
図表
参考文献 河井勝雄ら、ICRPの内部被ばく線量評価法に基づく空気中濃度等の試算、JAERI-Data/Code 2000-001, 87p(2000)
https://jopss.jaea.go.jp/pdfdata/JAERI-Data-Code-2000-001.pdf

吉澤道夫、水下誠一、「外部被ばく及び内部被ばくの評価法に係る技術的指針」について、保健物理、34(3), 319-322 (1999)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jhps1966/34/3/34_3_319/_article
参照サイト ・放射線を放出する同位元素の数量等を定める件
https://www.nsr.go.jp/data/000045581.pdf

・核原料物質又は核燃料物質の製錬の事業に関する規則等の規定に基づく線量限度等を定める告示
https://www.nsr.go.jp/data/000306810.pdf

・外部被ばく及び内部被ばくの評価法に係る技術的指針 (平成11年4月放射線審議会基本部会)
(第1回眼の水晶体の放射線防護検討部会(平成29年7月25日、原子力規制委員会 開催)にて参考資料3として使用)
https://www.nsr.go.jp/data/000197226.pdf
作成日 2021年12月
更新日