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分野
ICRPの言うALARAとはどういう考え方でしょうか。
答え ICRPは、1973年のPublication 22「線量は容易に達成できる限り低く保つべきであるという委員会勧告の意味について」において、「線量低減による経済的・社会的便益が、線量低減に必要な経済的・社会的費用と等しくなるようにすることで、すべての線量を容易に達成できる限り低く制限できる」とし、具体的な分析方法として費用・便益解析が紹介されました。この報告以降は「合理的に達成できる限り低く(As Low As Reasonably Achievable;ALARA)」という表現が定着しています。
この考え方のもとになったものは、1954年の勧告までさかのぼります。その勧告において、
・「最大許容量」、すなわち「許容できる被ばく線量の上限値」を勧告する一方で、勧告の根拠となっている科学的知見が不完全なものであること 
確率的影響に関して、直線・閾値なし(LNT:Linear No-Threshold)モデルを仮定していること
を考慮し、線量制限は、それ以上リスクを低減することがもはや困難であると認められる程度まで十分に低いレベルに設定されるべきであるという考え方を採用しました。この考え方に基づき、職業被ばくのリスクについては、高い安全水準にある他の産業において、また、公衆被ばくのリスクについては日常生活においてそれぞれ通常容認されている他の危険より小さいか、同じであるべきとし、放射線による被ばくを実現可能な最低レベル(The lowest possible level)にまで、低減すべきであるという考え方を示しました。
1958年勧告では、ICRPは初めての具体的勧告としてICRP Publication 1を刊行し、放射線作業者と公衆に対して放射線安全基準を示しました。1959年勧告では、「最大許容線量」が「許容できる最大値」を意味することが改めて強調され、すべての線量を実行可能な限り低く(As Low As Practicable:ALAP)保つべきであるとしました。
さらに1965年勧告では、表現が改められ、経済的及び社会的な考慮を計算に入れた上で、すべての線量を容易に達成できる限り低く(As Low As Readily Achievable;ALARA)保つべきであるとしました。この考え方をさらに拡張したものが、1973年の報告であり、readilyが本来意味するところは、より正確にはreasonably(合理的に)で表されることが明記されました。
その後1977年勧告では、防護の最適化として、「社会的・経済的要因を考慮に入れながら合理的に達成できる限り低く(ALARA)」被ばく線量を制限することが求められており、この考え方は、1990年勧告、2007年勧告でも同様です。
さらに、最適化は線量の最小化ではないため、具体的な結果ではなく、プロセス、手法、判断に焦点をあてること、意思決定においては関連するステークホルダーが対話に参加し、透明性を配慮すること等が重要であるとICRPは指摘しています。
キーワード
図表
参考文献
関連サイト https://www.icrp.org/docs/P9_Japanese.pdf
ICRP, 国際放射線防護委員会の1965年勧告, Publication 9 (1967)
https://www.icrp.org/docs/P26_Japanese.pdf
ICRP, 国際放射線防護委員会の1977年勧告, Publication 26 (1977)
https://www.icrp.org/docs/P60_Japanese.pdf
ICRP, 国際放射線防護委員会の1990年勧告, Publication 60 (1991)
https://www.icrp.org/docs/P103_Japanese.pdf
ICRP, 国際放射線防護委員会の2007年勧告, Publication 103 (2009)
作成日 2019/02/28
更新日