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大分野 影響
中分野
タイトル 精神遅滞
説明 精神遅滞とは、(1)全般的な知的機能が同年齢の子どもと比べて明らかに遅滞し、(2)適応機能の明らかな制限が、(3)18歳未満に生じる、と定義されている。一般にいう、知的障害(intellectual disability: ID)と同じである。知的機能は知能検査によって測られ、知能指数(IQ)70以下の場合は、知的障害と診断される。また、適応機能は日常生活での適切な対処や自立性などから判断されている。
精神遅滞の原因として、次の3つの要因、(1)生理的要因(遺伝的な脳の発達障害)、(2)病理的要因(胎児期の風疹感染症や毒物による中毒症、幼児期の脳外傷や感染症といった疾患や事故に加えて、ダウン症のような染色体異常など)、(3)心理的、社会的要因(児童虐待など、不適切な環境での生活など)、が指摘されている。

発生途中の胎児では、中枢神経も盛んに発達していくので、放射線の感受性が非常に高い。原爆による中・高線量放射線の胎内被ばくでは、胎内被ばく児に精神遅滞や知能指数(IQ)の低下が観察されている。精神遅滞の誘発は、脳の発達段階と密接の関係している。脳の発生は受精の後、第1期(0 - 7週)、第2期(8 - 15週)、第3期(16 - 25週)、第4期(26週以後)の4つの期間に分けられる。放射線被ばく線量と精神遅滞の誘発の関係を見てみると、第2期の胎内被ばく児が最も高感受性で、線量に依存して重度の精神遅滞が現れている。この第2期の被ばくでは、しきい値(100 - 200mGy)も明確に存在することが示されている。また、1,000mGy程度の胎内被ばくによって、重篤な精神遅滞が高い確率で起こることも報告されている。第3期の胎内被ばく児でも、第2期の胎内被ばく児のように明確なものではない(およそ、4分の1程度に低下)が遅滞は観察されている(図1)。一方で、第1期と第4期の胎内被ばく児には精神遅滞は観察されていない。IQテストにおいても、第2期、第3期の胎内被ばく児に低下が認められている。重度精神遅滞の発生には、神経細胞死、細胞の機能障害、シナプスの形成不全など、幾つものの障害が重複して引き起こされると考えられる。
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図表 図1:胎内被ばくした集団における精神遅滞の発症と被ばく時期、被ばく線量の関連性
参考文献 DRESA「低線量放射線安全評価データベース」(2000年度制作 企画:文部科学省 制作:日本原子力研究所)
新版 放射線生物学(窪田宣夫編集、医療科学社) 、放射線基礎医学、第12版(青山喬、丹羽太貫編著、金芳堂)
参照サイト 知的障害(精神遅滞) https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-04-004.html
放射線影響研究所ウェブサイト「体内被曝の身体的・精神的発育と成長」https://www.rerf.or.jp/programs/roadmap/health_effects/uteroexp/physment/
放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料(上巻)放射線の基礎知識と健康影響(平成29年度版)
https://www.env.go.jp/chemi/rhm/kisoshiryo/pdf_h29/2017tk1s03.pdf
作成日 2019/03/01
更新日