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分野 メカニズム研究
放射線ホルミシスと適応応答とはどこが違うのでしょうか
答え 放射線ホルミシスとは、微量の放射線によって生体に刺激作用がもたらされることで、もっぱら個体レベルの現象を指します。適応応答は微量の放射線により生体の防御機能が増強されることによる現象を指し、個体だけでなく細胞や分子レベルの現象も含まれます。

ホルミシスはもともとは毒物学の分野で用いられていた概念で、「大量であれば有害な物質が、微量の場合には生体に刺激を与え有益効果をもたらす現象」を指します。「大量であれば有害」な放射線の場合についてはどうだろうか、とT. D. Luckeyが「放射線ホルミシス」として情報を取りまとめました。植物の生長や発芽率、微生物の増殖などが典型的な指標として取り上げられています。また疫学研究の結果をホルミシス効果で説明した例もあります(ラドン温泉で有名な鳥取県三朝町の住民を対象とした疫学調査など)。
一方、適応応答は「あらかじめ微量の放射線を照射しておくとその後の高線量放射線に対して抵抗性を示す現象」として1984年に最初に報告されました。狭義には、微量の事前照射と大量の試験照射の2回の照射によって示されますが、試験照射は事前照射によって生体内での「防御機能」の様子を探るために高線量を与えるものであり、必ずしも必須ではありません。現在では、微量の放射線による「生体防衛機能の増強」と考えられています。

ホルミシスが主として個体レベルの現象を指す言葉であり、しばしば「身体に良い効果」と表現されるのに対し、適応応答は個体から、細胞、分子レベルでの現象を含みます。特に細胞・分子レベルでその機構に踏み込むと「良い」とか「悪い」とかの「判断」はふさわしくない。放射線適応応答はホルミシスを含むより広い概念といえましょう。
放射線適応応答は、LNTモデルの「リスクは曝露量に依存する」という主張が低線量の場合に成り立たないことを示しています。ただし、適応応答誘導に必要な線量には、それぞれの指標ごとに比較的狭い範囲でのみ観察されることや、遺伝的要因によって規定されていて、個体ごとにその程度に差があることなどがわかっています。
生物学的な観点からは、将来的には医療面での適用にもつながりうる興味深い現象であるが、一般性を重視し、リスク評価に当たって安全側に立つ観点からは、放射線防護体系に反映することはできないとされます(放射線防護・放射線管理の基本的考え方としてLNTモデルを採用することの否定には至りません)



キーワード ホルミシス、適応応答
図表
参考文献 低線量放射線と健康影響(放射線医学総合研究所 編著)
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作成日 2015/02/28
更新日